父が死んだ母が死んだ





 両親がいつ死んだのか忘れてしまった。確か小学生の中学年くらいだった気がする。担任が俺の扱いに困っていた記憶があるからその頃だろう。
 もう両親の声は思い出せない。幼い頃の映像はおろか写真すらまともに残っていないのだ。死んだ人間の事で一番早く忘れるのは声だという話は本当らしい。次に忘れるのは何なのだろうか。身長か、顔か、おぶってもらったときの背中の広さか、並んで歩いたときの歩幅かも知れない。正直な話、それらのほとんどをもう思い出そうともしないから、いくら予想を立てても意味は無い。そもそも、もう死んだ人間の事を思い返す事そのものに意味なんて無いんだ。気を遣った叔父がマンションにアルバムを置いていってくれたが、未だに開くことが出来ずにいる。