いじるケータイの画面には9:30の文字が浮かび上がっている。気にするなとばかりにあくびをして、通学路を歩く。
どうにも、私は遅刻をしたらしい。
まあ、これには深いわけがあって。朝から色々あったからいけないんだ。本当に色々あった。色々ありすぎて、もう急ぐ気さえ失せるほどには。
もう一度大きなあくびをして、角を曲がると、何故か、この時間にはいるはずがない同じ中学の制服を着た男の子がいた。
うわ、何してるんだ。
ってのが感想。何故なら、鞄を道路に置いて、側溝に入っているから。
多分、何かを探しているんだと思うけど、その光景はなかなかに異様だ。背の高い男の子が、側溝に。シュール、シュール。
泥の中に手を突っ込んでは、出して、突っ込んで、出してを繰り返している。手を入れるときも、ビクビクしながらやっていて。
ああ、虫が嫌いなのかな。涙目だ。
このまま行けば、あの横を通ることになるけれど、そのまま素通りするのはいかがなものかなのか、と考える。私もそこまでクズではないしな。これ以上遅刻しても、問題がないことはないけど、まあ、問題ないだろう。地味だし。
仕方ないか、とため息をついて、男の子に近づいた。
「あの、」
「はい!?」
後ろから声をかけられたからか、私の存在に気づかなかったからかは分からないが、かなり驚いた様子で、男の子は振り返った。そして、私の顔をジッと見る。まるで不思議なものでも見るような目つきで。
「あー、遅刻、したから。ここにいるんですけど」
「あ、ああ、そうなんですか」
「はい。貴方は何を?」
「それが、大切な物を落としてしまって…あれを無くしちゃうと…」
今も涙目だというのに、みるみる泣きそうな顔になっていく。何だか私が悪いことをしている気分。
「2人で探した方が速いですよって言いたいところなんですけど。私がやるんで、出ていいですよ」
さっきまでの泣き顔が一転、呆気に取られた顔になる。
表情の変化が激しい子だな、ってのが、2回目の感想。
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