「……おつかれ」
「名前怒っとるん..?」
「びっくりしただけだから気にしなくていいよ」
「あのー、おひめ、さまだっこは悪かったと思ってる」


お姫様だっこって言うのさえ恥ずかしがる癖によくあんなことできたな。
走ってる最中に聞こえたのは冷やかしの声で私は恥ずかしくて堪らなかったっていうのに。


「…でも一位とれたのは謙也のおかげかもね」
「まあ浪速のスピードスターやからな!」
「許したとは言わないけどね」
「なんやそれ!!」


心地のいい会話のテンポに、懐かしさを感じて、ここ最近本当に謙也と話していなかったと実感する。


「謙也先輩!名前先輩!」

こんな声にも懐かしさを感じて、聞きたくなかったなんて汚い思いに直面させられるこの感覚も、ある意味なつかしいというのか

「お、渡辺やん!どうした?」
「一位おめでとうございます!凄く速かったです!流石浪速のスピードスター!」
「せやろ?!浪速のスピードは伊達やないで!」
「はい!めちゃくちゃかっこよかったです!」


私がいない間だってそりゃ時は進んでたわけで、止まってたはずなんてないことだってわかってたんだけど、私の知っている二人より随分仲がよくなった二人を見てそのことを改めて思い知らされた。


「謙也、私そろそろ仕事あるから」
「ん?あ、もう行くん?」
「うん、これ委員に確認してもらってきて」


お題の紙を謙也に渡して、驚いている渡辺ちゃんに一言、ごめんねを告げて生徒会のテントへ戻った。

「一位おめでとう」
「ありがとー」

沢山のおめでとうの言葉に感謝の言葉を返しながら次の仕事の確認を始めた。

紙を見れば次の競技は借り人の男子。
次の段取りをしている間、あの場から逃げる時少し悲しげな表情をした謙也が頭の中からはなれなくて、自然と顔が曇る。


「よーい、」


スタートのアナウンスとピストルの音が響いて、思考の海から引き上げられる

一番最初に箱までたどり着いたのは謙也だった。この競技に参加していたことに今さら気づいた私は、思ったより上の空だったらしい。
謙也は何を引いたんだろう、そう思っていたとき、後ろに一際目を引く人物。ああ、どうやら彼も出場していたみたいだ。


「財前くん、」


ポツリと呟いただけで、あの時の自分の理不尽さに、罪悪感がこみあげる。
財前くんは紙に書かれた文字を見て、目を見開いていた。


「?」


なにかあったのだろうか、その思いとは裏腹に、財前くんは何事もなかったかのようにくるりとこちらを向いてそのまま歩いてくる。自意識過剰かもしれないけれどばっちり目があってしまっていて、最悪な予想がふわふわと浮上してくる。
ぴたっと目の前で止まって、紙をこちらに向ける。そこには《生徒会長》そう書いてあった。

「……先輩、はよしてください」
「え、」
「生徒会長はあんたやろ」

思考は追い付かないけど、このまま待たせる訳にもいかずに立ち上がる。

「行きますよ」

私の手首をがっしり掴んで、財前くんがそう言う。うん、そんな返事なんか聞かずに彼は走り出した。



「先輩が遅いから3位なんや」
「ごめん」


面と向かって財前くんと話すと、やっぱり思い出すのは生徒会室での出来事で、このまま放っておいちゃダメなきがして、そんなもやもやした思いのまま財前くんに顔を向ける。

「……財前くん」
「?なんですか」
「前、生徒会室で、ごめんなさい」
「....もう、ええですよ。俺もあんな踏み込んだことなんも考えず聞いてほんますみません。」
「いや、ほんと、ごめんね」
「もうええですって、お互い様ですやん」
「ありが、と」


もういいですよ、そう許してくれて、笑顔を向けてくれる財前くんに安心して力が抜けたのかもしれない。


目の前にいる財前くんの声が遠くに聞こえる。


「?先輩……?」



その声を最後に、私は意識を手放した。
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