舌に纏わりつくどろりとした苦味ばかりの生臭い液体を、青年は酷い味に顔を歪め、何度も喉につっかえさせながら飲み込んだ。
引き攣れたような喉が嚥下に動き、ごくりと音がなる。堰を切ったように吐き出されるのは、咳き込むような荒い息。
冷たい石床に膝をついた体を折り、飲み込んだものを吐き出さんばかりに咳き込む。
げほげほという声と形容するかも怪しい音に合わせて編んだ長い三つ編みが揺れた。片方はほどけて、波打つ髪が揺れるばかりだったが。
開いた口から、その唇の端から、透明な唾液が零れて地面にぱたりぱたりと染みを作る。
黒くぬらりと光る帯革をぐるぐると巻かれ、ぎちり、血が通うか心配になるほどに強く拘束された両腕で彼は倒れ込みそうな体を支えた。
そんな彼を見下ろす声がある。声は言った。

溢れてる。

地面に接吻を交わさんばかりだった彼は顔を上げた。上げて、また地面に視線をさ迷わせる。唾液の染みの少し横、どろりとした白い染みが幾つか石床に浮かんでいた。再び、彼は顔を上げた。左と右で色のちがう、紫と青の目が戸惑いと拒絶の色に滲んでいた。声は静かに青年を見下ろす。青年の顔が歪む。左右異色の目が屈辱に閉じられて、頬を伝うのは塩分を含んだただの熱い水。彼はまた、下を見た。染みの浮かぶ石床を見つめ、両目からはぼろぼろと水を溢しながら。唇を強く噛んで、そこへ顔を寄せた。

ぴちゃ、り、。ぴちゃ、。

真っ赤な舌が伸ばされて、冷たい床を這う。
涙を流しながら、彼は獣のように地面を舐めて舌で白を掬い取ってみせた。
声は静かに彼を見下ろす。青年を見下ろす。
金のさらりとした髪から覗く白い首には不釣り合いな黒。それは、犬か何か、言うなれば、家畜と形容されるものに、つけるような革の首輪。
金の隙間から、にたりと、隷属の証は笑ってみせた。


20120722 ヒューマンデイズ





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