編み込んだ金髪に細かい砂が入り込むのにも構わず、エルは乾いた黄の砂地に背中から倒れた。はあはあ、と酸素を求める渇ききった喉の悲鳴。無意識に舌も出る。顔は汗と砂埃に汚れている。シャツはべたつく肌に張り付いている。口に流れ込んで舌に溶けた汗は涙の味に似ているようで違った。広い広い軍学校のグラウンドで大の字になる少年を笑う、突き刺すような太陽、目に痛いほどの空の青。倒れる瞬間に視界の端に端に映ったのは自身の金、目に焼き付いたまま。疲れきって回らない思考、エルと自身を呼ぶ声に振り向くのにも随分時間がかかった。緩慢な動作で首を動かして、陽に煌めく燻し銀の髪を見付けた。その下の透明な青の目も。
ジュリオせんぱい。
呟いて、エルはふにゃと笑う。ジュリオという名の長身の青年のその手から放り投げられたのは、冷えた水で満たされたペットボトル。右手のそばに転がったそれをつかんで蓋を開け、渇いた喉に流し込んだ。全身の細胞が歓喜する錯覚。
「今日は何周だ?」
ぷはっ、とエルがほとんど空になったペットボトルから唇を離すのを見てから、ジュリオが尋ねてくる。
「あ……十周です、俺またミスしちゃって……」
「で、走り切ったのか?今日なんて誰も監督してないのに」
広いグラウンドを見渡して呆れたように言う青年に、エルははい、と笑みを浮かべる。
「俺、真面目にやることしか取り柄ないんで。それすらやめたら、俺には何にもなくなっちゃいます」
砂を巻き込んで吹きすさぶ風の音、それに紛れるようにジュリオの声。たった一つの取り柄なんかじゃない、それがお前の一番良いところだよ。微笑みを乗せたジュリオの手が、少年の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に掻き回した。


20120504 優しい世界で待ち合わせ




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