ただの一欠けもしてない青白い大きな月が頂点から少しずれた闇夜、青の軍服を纏う青年が振る長剣の刃が薄暗い路地で鈍く輝いた。彼の二本に分けられ、編み込まれた長い金髪が跳ねる。背中の巨大な翼を上手く利用して後ろに跳躍し、彼の剣撃を避けた男の白髪が激しく舞う。青年が再び剣を振りかぶったとき、その大きな動きの隙を突き、男が青年の腹に鋭い蹴りを入れた。青年の、割に小柄な身体が後ろに飛び、青年は固い地面に身体を打ち付ける。短く、高く、呻き声。意地か、長剣から青年の右の手は離れていない。靴音。青年に近付く男の手に、青年を真っ直ぐに睨む鈍い黒の銃口。白髪の下の冷たい灰青の視線を青年に落としたまま、男の低い声。

「餓鬼ァ……手ェ煩わせんじゃねェ……」

身軽な青年の動きに翻弄されてなかなか位置の定まることのなかった拳銃は今は揺れることもなく。
「殺しがご法度じゃなきゃァその女みてェな頭とっくにぶっ飛ばしてんだよう……さっさと星出しなァ」
青年は男を睨み付けたまま、何も言わない。男の舌打ち。
「糞餓鬼がァ……じゃァ遊んでやるよう……泣いて悦びなァ!」
叫ぶ男の指が引く引き金、青年の右足の股に撃ち込まれる銃弾、苦痛に歪む青年の顔、彼の口から確かに発されたはずの、悲鳴。何も起きなかった。正確には、音が。引き金が引かれる音も銃弾を打ち出す銃声も青年の悲鳴も何も聞こえなかった。ただ無音に沈む空間、破るものは何も無い。右足を押さえる青年の顔には苦痛とそこに上塗りされる驚愕の色。にやりと唇を歪めた男が態とらしく蹴りつけた足に青年の口が再び悲鳴に開いても、それでもひたすらの無音。音のないテレビ番組を見ているような、異常な空間。青年の表情が恐怖に歪む、男の表情が愉快そうに歪む。ゆっくり楽しもうぜェ?唇の動きが紡ぐ言葉。恐怖が音無く満ちる路地にひらりと一枚、黒が滲んだ白の羽。


20120506 僕が死んだ日



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