夏油さんに男装バレしました(not離反if夏×後輩術師)

 今日は夏油さんと合同の地方任務だった。なんでも感知に長けた呪霊だったようで、呪術師の気配を察知しては逃げてを繰り返して特級近くまで育ってしまったらしい。
 そこで認識変化の術式を持つわたしの出番ということだった。わたしの術式でわたしたちの気配を呪霊に気取られないようにすれば、いわば透明人間のようなもの。こちらのことが認識出来ていない特級を夏油さんが祓うのは一瞬だった。

 そして任務を終え、今日宿泊する予定のホテルに帰って来た今、わたしは十数年生きてきた中で一番の緊急事態に直面している。
 何故かといえば、その答えはわたしが見ている景色にある。目の前にあるのは至って普通のホテルの部屋。しかし、ベッドが2つ。そう、



ここはツインの部屋だったのである。



「え、今日ってツインでしたっけ」
「その予定だけど、何か問題でもあるかい?」
「いや、いつもは別々の部屋だったので少々驚きまして……」

 何が不味いのかって?それはね……わたしがそこそこ名のある呪術師家系の長男として男装して過ごしている正真正銘の女子・・・・・・・・・・・・・・・・・だからだよ!!!!付き合っても無い男女がツインとか正気か???(側から見れば男同士なので何も問題はない)認識変化の術式掛けて男のように見せかけてるけど、寝てる時は無理だからね?!男装がバレたら呪術界でどんな目に遭うかなんて考えたくも無いッ!!

 高専時代は夜蛾先生、硝子さん、五条さん、伊地知くんなどの一部を除きなんとか隠し通してきたが、今日はマジでヤバい。泊まりがけの任務で組んでる術師がいれば、部屋が別々になるよう手配してもらうことは暗黙の了解だった気がしたが、それも伊地知くんが徹底してくれていたからだ。

 今日の補助監督?今日は2人だったしいないよ?あ、でも手配した人の名前は知らない人でした!知らなかったんだろうな〜伊地知くんも忙しいから他の人なのは仕方ないけどよりによって今日とか。
 加えて今日の合同任務はあの夏油さんとだ。この人のクズさ加減はよぉく知ってる。それに腐ったミカン大嫌い同盟No.2だろ???(No. 1は目隠しした特級)うちの家って腐ったミカンに名を連ねると思うんだよな〜バレたら私の生涯終わるのでは???ダメじゃん詰んだよ。

「君は私と同じ部屋では嫌かい?」
「エッ、いや、夏油さんと一緒なんて光栄ですね!」
「ふふ、灰原と同じようなことを言うね」
「灰原さんのはもはや信仰なんで一緒にしないであげてください」

 今でこそ柔らかい物腰だが、知られたらと思うと冷や汗しか出てこない。なんとか隠し通してこの場を乗り切るしか道はないので、覚悟を決めて部屋の中へと歩みを進めた。











◇◇◇◇◇













 2人とも荷物を置いて少しした頃、ご飯の前にお風呂に行く流れとなった。

「私はお温泉に行こうと思うけど、君も一緒にどう?」
「せ、せっかくですが、今日は遠慮しておこうかと思います」
「私とはあまり入ったことがないだろう。それとも私とは一緒に行きたくない?」

 行きたくない?じゃないんですって!わたしが男風呂入ったらバチバチにアウトなんですよ。お巡りさん案件です!!風呂に行かない理由is何!!ちょっと考えさせて!

「えっと……わたしは少し風邪気味なので温泉は遠慮しておきます」
「風邪気味……平気なのか?」

 一気に夏油さんの顔が曇る。嘘なんですけどね。一瞬で一緒に温泉イベント回避する理由を弾き出したわたしの脳、優秀では??ちょっと悪い気がしてきちゃうので心配しないでください。

「あ、風邪気味と言っても軽度だと思うので大丈夫です!わたしは部屋でシャワーを使うので、遠慮せず行って来てくださいね」
「軽い風邪だったとしても、何か不調があれば言うんだよ。それじゃあ私は行ってくるね」

 夏油さんは少しきまりが悪そうにしていたけど、浴衣とタオル、部屋の鍵を持って部屋を出て行った。

















 あー束の間の休息。夏油さんの足音もしなくなったので認識変化の術式を解いた。常時発動はもう慣れたようなもんだけど、やっぱり発動してると疲れるのだ。朝から術式張ってたからそこそこに消耗していたので、少しの間でも術式を解除できる時間は貴重だった。
 またそれと同時に1つに縛っていた髪を下ろす。男子として生きていても長い髪を維持している理由は、高専に入ってから夏油さんが長髪なのを知ったからだ。それまでは短髪だったけど、夏油さんを見て伸ばし始めた。

 夏油さんが来る前にわたしもシャワーくらい浴びようかな。ここがシャワーのついてる部屋で良かった。任務の後にシャワー浴びられないとか拷問だからね。シャワールームで着替えるのはスペース的に面倒くさいから、部屋で着てるものを脱いで下着だけになる。
 絶壁くらいの胸だったら良かったんだけど、わたしのは女って分かるくらいには質量があるのでブラと認識変化の術式は必須だ。術式を解いたから、普段はぺたんこに見せている胸が自分の目にもふっくらと丸みを持って映る。
 ちなみに今着てるのは黒い上下セットの下着とキャミ。なんで持ってるかって?それは休日に女性の格好をして街を出歩いてるからです!その時に買ったのさ!まあ、見せる相手なんて皆無なんだけどさ。

 さて、そろそろシャワーを浴びに行こうかな。下着の替えと浴衣を持っていざシャワールームに行こうとすると、背後からガチャリという音がやけに大きく聞こえた。

「いや、下着を忘れてしまって、ね……?」
「げ、とう、さん?」

 咄嗟のことすぎて術式の展開が間に合ってない。ということはつまり、わたしの下着姿を夏油さんに見られてしまった訳で。

「君、女だったの……?」

 ぱさり、とわたしは手に持っていた物を全て床に落とした。

「あ、いや、その、」
「怒らないから、どういうことか説明してもらおうか」

 焦ってしどろもどろになるわたし。対する夏油さんは驚いたのも一瞬、それはそれは怖〜い笑顔になってわたしに説明を求めてきた。












◇◇◇◇◇












「____で、今に至る、と」
「はい……」

 怖い怖い笑顔を頂戴した後、これを着ていなさいとわたしが床に落とした浴衣を肩に掛けられ、わたしは夏油さんとお話(という名のわたしの事情暴露大会)をした。

 そこではさっきの風邪気味は嘘だということに始まり、わたしが幼い頃から家を継ぐために男装をしてきたこと、両親には逆らえなかったこと、本当は女子の格好をするのが好きなことなどまで、ほとんど全てのことを話した。
 途中からわたしの愚痴も混じっていた気がするし、ぐだぐだとした話だったと思うけど、夏油さんはちゃんと全部聞いてくれて、話し終わった後には気付いたら泣いていた。

「辛かったろうね。何も気付いてやれなくてすまない」
「そ、そんな……夏油さんに謝ってもらうことなんて何もないですから……」

 夏油さんならこの弱みを盾に脅してくるかも、と怯えていたのだが、それも杞憂だったようだ。それどころかわたしを慰めてくれている。

「このことを知っている人は他にはいる?」
「えっと、夜蛾先生、硝子さん、五条さん、それに伊地知くんの4人です」
「そうか。誰も知らない訳じゃないんだね……君が困った時に相談できそうな人がいたようで良かったよ」
「あの、夏油さん。このことは周りには秘密にしてもらいたいんですけど……」
「もちろん、君の秘密は守るさ。誰にも言ったりしないから安心して。それに困ったことがあれば他の4人だけでなく、今後は私も頼ってくれて構わないよ。何か力になれることがあれば言ってくれ」
「夏油さん、ありがとうございます……!」

 良かった!!呪術界的死亡フラグ回避……!!協力を申し出てくれるなんて、夏油さんには感謝の言葉しかない。脅されるなんて思って申し訳ない気がした。

「その代わり、と言ってはなんだが、1つ私からのお願いを聞いてくれないか?」
「聞ける範囲なら。何ですか?」
「その、今後、極力私の誘いを断わらないでほしいんだ」
「それは、どういう?」
「私が食事や映画とかに誘ったら一緒に来て欲しいという話さ。最近悟も忙しいから予定が合わなくてね。1人で行くのも寂しいと思ってたんだ」

 食事の、お誘い?1人は寂しい?夏油さん意外と可愛いとこあるな。でも咄嗟に返事はできなくて少し黙る。

「ああ、もしこれだけで嫌なら……私が誘ったら女の子の格好で来るのはどうかな?私なら女性を連れていてもなんの問題も無いだろうし、私も1人で行くと色々声を掛けられて疲れてしまうんだ。わかるだろう?」

 少し困ったように笑う夏油さんは、高専時代から女性関係は派手だと聞いたことがある。言い寄ってくる女性も多いようだし、逆ナンされる数も多いのだろう。モテる男は違うよな。
 自分がいることで女避けができるかは分からないが、わたしも女の子の格好で出歩くというのは正直願ってもないことだ。

「わたしにばかりいい条件のような気がするんですが、本当にそれでいいんですか?」
「いや、私のお願いだからね。もし君がよければの話だよ。どうだい?」
「いいですよ」
「本当かい?ありがとう」

 先程とは違い柔らかな笑顔をした夏油さんは、嬉しそうにはにかんだ。ああ、こういう笑顔で女の子たちを落としていくんだろうなと他人事のように考える。

「それじゃあとりあえず温泉に行こうか。今日はもう術式を解いていて大丈夫だから、ゆっくりしに行こう」
「あ、でも夜ご飯が……」
「夕食は元々外で食べる予定だったから時間は大丈夫だよ。私は先に外に出ているから、着替えが終わったら出ておいで。温泉までは一緒に行こう」
「はい、ありがとうございます」

 夏油さんはクズだと思ってたけど、意外に優しいところもあるんだなあ。そう思って彼の背中を見送った。




















安心しきっている彼女は気付くことはない。
一足先に部屋を出た夏油が楽しそうに口の端を歪めていたなんて。














○男装してるのがバレた夢主
これまで男装して過ごしてた。一人称はわたし、長髪を一つに束ねている。伊地知と同じ学年。
男装は高専時代に知られていた4人のおかげでバレずに済んでいた。
認識変化の術式で夏油が呪霊を取り込むのをサポートしてる。
今回のことで夏油の株がめちゃくちゃ上がった。
割と抜けているので夏油からお願いされた条件の真の意味を理解しきれていない。


○男装してるのを知った夏油
実は高専時代から後輩の秘密について知っていたけど、知らないフリをしていた演技派。
夢主のことが好きなので高専を出たらアプローチを始めようと思っており、今回がその決行日だった。ツインにしたのはこの人です。
自分からアクションを起こそうと思ってたら後輩が普通に自爆してくれたので内心にっこにこ。
他人のお願いをほいほい聞いてくれる後輩が心配だが、そこも含めて可愛いと思ってる。
条件は何のお誘いかで縛ってないんだよ。この先関係を深めたら夜のお誘いもする所存。
優しいフリをしているが、この男、やっぱり策士でクズである。






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