黒髪碧眼の『さとる先生』が見つからない件について(五先生×生徒)

 その日はテストまで1週間という、部活が休みの日だった。もう3年生だったから、テスト結果がもろに進学に影響する。そのため、部室に忘れてしまった教科書を取り戻った。
 真っ暗な校舎の外。少し古めの中学校は校内を照らす電灯も古めかしく、私の目的地への道を照らす光はほとんど無いに等しかった。
 進むにつれて、なんだか言いようの無い怖さが身体に纏わりつく。夜の学校は怖いよね、なんて思うだけに留めて頭の奥で少し引っかかっている怖さをを振り払うと、部室棟へと歩みを進めた。

 部室棟は思わず足が止まってしまうような、これ以上ここにいたくないような雰囲気が漂っていた。だがしかし、私の目的地であるソフトテニス部の部室は部室等の一番奥。この暗がりを突っ切らねばならないのだ。
 携帯のライト機能を使って辺りを照らしながら部室の連なる空間を突っ切る。中庭にはいつもそこを照らしているはずの月明かりさえ見えなかった。
 無事に部室内に着いて、英語の教科書を握る。こいつを手に入れればもうここに用はない。部室を出て校門へ向かおう。そう思った時だった。
 部屋から出た瞬間に感じる異様なプレッシャー。目の前にいたのは、今そこを通って来た私からしてみれば信じられないくらいに禍々しく、強大な『何か』で。いつも見えてしまうような少しキモい奴らとは桁違いにヤバそうなやつ。
 頭では逃げなくちゃと思うのに、体は言うことを聞かず、その場に立ち尽くすしかなかった。

――あ、やばい

 そう思ったのが早かったか、衝撃が早かったか、得体の知れない『何か』によって私の体は吹っ飛ばされた。幸い部室棟の中庭に転がされたので芝生と土が私の身体を守ってくれたようだが、格闘技をやってるわけでもないので普通に痛い。ていうか骨いったんじゃないんだろうか。

 今は6月。引退試合を来週に控えてるのにどうしてくれるんだ。こちとら必死に練習して掴んだレギュラーなんだぞ。今は関係ないことかもしれないけれど、何故かそんなことが頭に浮かんできて、『何か』への恨みが募る。
 対して『何か』はというと、そんなことはお構いなしというかのように、その気色悪い身体(?)を蠢かせて私を襲わんとしている。
 植物の蔓というか触手もどきの攻撃が私に迫る中、触るな!と思いながら接触しようとするそれを払いのければ、バチン!と何かが私の手で弾けて、『何か』が伸ばして来た触手らしきものが弾け飛んだ。
 私今何やった?驚いて自分の手を見つめるけど、それはいつものマメがあるくらいでなんの変哲もない右手だ。
 なんて自分で不思議がっていると、『何か』は弾け飛んだ触手にご立腹の様子で、禍々しいオーラを倍増させている。
 逃げなきゃ死ぬ――そんな確信があった。
 けれど体は痛いし、そんな隙も無いしで色々詰んでいる。『何か』が私を取り込もうとその身体を私に向かって伸ばして来る。

「だいじょーぶ?……じゃなさそうだね」

 もう駄目かな、なんて諦めかけた私を守ってくれたのは、教育実習でウチの学校に来ているはずの三条悟先生だった。

「さ、さとるせんせ……?」
「もう大丈夫だから。耳塞いで目ぇ閉じて、10秒待ってて」

 先生は私を安心させるように柔和な笑みを浮かべると、私の頭をひと撫でし、『何か』に対峙する。

――俺の生徒に手ェ出したこと、後悔させてやるよ

 そんな声を最後に、私はしっかり耳を塞いで、目を閉じると、そこから入ってくる情報をシャットアウトした。
 きっかり10秒経ってから恐る恐る目を開けてみると、そこにはもう気持ち悪い『何か』はいなかった。代わりにあるのはだいぶ壊れた部室棟と、少し乱れたスーツを着ているさとる先生だけ。先ほどは隠れていた月も、今は先生の逞しい体躯を照らしていた。

「ぜんぶ終わったからもう大丈夫だよ」
「せんせ、助けてくれて、ありがとうございます……」
「いいのいいの。俺の方こそ遅くなっちゃってごめん。でもその怪我、わりと酷いんじゃない?」
「言われてみれば……痛い、です……」

 先生に言われて自覚した痛みは、ズキズキとその存在を主張してくる。さっきはそこまで痛くなかった気もするのに。先生が来てくれたことでの安心と感じる痛みで意識が遠のく気がした。

「あっ、ちょっと?!」
「せん、せ……」

 ふらりと傾く身体を支えてくれたのはものすごい勢いで駆け寄ってきたさとる先生。「しっかりして!」なんて声も聞こえるけど、もう限界が近いみたいだ。
 視界に映るのは先生の蒼い瞳と風に揺れる黒髪。それを最後に私は意識を手放した。






 目が覚めると、知らない天井が。
 なんか漫画とかでよく見るやつだ。
 ついに私も体験しちゃったかーなんて現実逃避の言葉が頭をよぎる。ベッドから起きようとすると、タイミングよくカーテンが開いた。

「お、起きたな。体調はどうだ?」 
「怪我したはずなのに痛くないです……ここは……」
「そうか、それなら良かった。ここは東京都立呪術高等専門学校。後はこの人から聞いてくれ」
「夜蛾正道だ。君と話がしたいんだが、構わないか?」

 白衣の美人なお姉さんから紹介されて出て来たのは、なんともいかついおじさんだった。

 おじさん……じゃなかった、夜蛾さんの話を聞くに、気絶した私をここに連れて来てくれたのはさとる先生のようだった。先生は本当は呪術師、というやつで、あの気持ち悪いのから普通の人を守っているらしい。すごい。

 あの気持ち悪いやつの説明もしてくれて、私が気持ち悪いと思っていたのは呪霊と呼ばれるものらしい。そして私にはそれを祓う力がある、そう言われた。なんでも呪力とかいうもので、おまけに私にはその呪力?でいい感じに使える必殺技みたいなやつ――術式があるそうな。

 いや知らなかった。あれに怯えて暮らしていた日々を返してほしい。といっても呪力が使えるようになったのは、学校での出来事の時らしいけれど。
 ここで夜蛾さんから提案があった。それは呪霊を倒すために東京都立呪術高等専門学校で呪術を学ばないかというもの。

 私があんなのを倒す?マジで言ってる?なんて、夜蛾さんの真剣な瞳を見たらそんなこと言えなかった。返事は後でもいいだなんて言ってくれたけど、私はもう進路を固めなきゃいけない受験生な訳で。
 その話を聞いた時から思っていた疑問を投げかける。

「そこに進学したらさとる先生にまた会えますか」
「ああ。アイツは来年からそこで教師をする予定になっている。担任になるかはわからんが、会う機会はあるだろう」
「……私も頑張ったらさとる先生みたいになれますか」
「それは君次第だ」

 本当だったら、私は平凡な女子中学生のまま、普通の高校に進学していたのだろう。気持ち悪いやつのことも知らなかっただろう。でも、私は知ってしまったから。あの蒼い瞳に助けてとらったから。だからこの日が私のターニングポイントだったんだ。








「改めましてGTGの五条悟だよ〜!君に会えて嬉しいななんでも聞いてね!よろしく〜!!」
「副担任の夏油傑だよ。よろしくね」

 今日は高専の入学式。クラスには私と白髪に包帯?をした怪しげで謎にハイテンションな担任、それに黒髪ハーフアップで黒いピアスをした治安の悪い副担任だけ。
 教師陣ガラ悪く無い???私ヤバいんじゃない???不審者といかつい兄ちゃんと3人でやっていける自信ないよ??

 そう、まさかまさかの今年の入学生は私一人だけなのだ。人が少ないとは聞かされていたけれど、同期がいないのはマジで泣いた。密かに狙ってた私の高校デビューとか、友達とわいわいお出かけするっていう夢を返してほしい。
 ていうか五条先生の改めましてってなんで?一回も会ったこと無いと思うんだけど。

「お二人とも初めまして……ですよね?私、さとる先生にお礼を言って、稽古つけてもらって、私も他の人を助けられるくらい強くなりたいんで入学しました!これからよろしくお願いします!ちなみにお2人は三条悟先生ってご存知ですか?」
「「え」」

 私が挨拶を言い切った途端に固まる担任と副担任。え、なんかまずいこと言ったかな。もしかしてさとる先生と仲悪かったりする……?

「あ、あの、お気に障ったならすみません。でも、頑張りたいのは本当なので!」
「いや、気に障るとかは全然大丈夫なんだけど、え、僕のこと覚えてない……?」
「どこかでお会いしてますか?こんな奇抜な髪で不審者みたいな人、一回見たら忘れないと思うんですけど……」
「ふ、不審者だってよ悟ww」

 だって、ねぇ。白髪包帯黒づくめで高身長。こんな怪しくて存在感ありありの人、忘れるわけないでしょ。あと夏油先生はめっちゃツボってますね。大丈夫かな。

「ぼ、僕だよ!さとる!覚えてないの?!」
「私が探してるのは三条悟先生であって、五条悟先生ではないですよ?あ、もしかして親戚とかですか?」
「僕が三条悟だよ!さ と る せ ん せ い !」
「ちょっと意味わかんないですね?あのさとる先生がこんな軽薄でガチ不審者みたいな見た目してる訳ないじゃないですか!!冗談はよしてくださいよ

 そう言って私が笑えば、五条先生は「すぐるぅぅぅぅぅぅ」なんて夏油先生に泣きついていた。情緒不安定じゃない?大丈夫??夏油先生は夏油先生で笑いがおさまっておらず、かひゅっとか言い始めてる。腹筋痛そう。

「な゛ん゛で じん゛じて゛ぐれ゛な゛い゛の゛」
「日頃のッふふ、おこない、だよねッ……」
「うわぁぁぁぁぁん!!!」

 何?五条先生って5歳児なの??夏油先生は笑うとおさまらないね??ツボ浅すぎない??
 情緒ジェットコースターの担任と、笑い上戸の副担任。この学年は私だけ。
 初日にして上手くやっていける自信がありません。さとる先生、私はどうしたらいいですか?

 

夢主。名前は(まだ)ない
・五条に助けてもらったけど黒髪スーツのかっちりした人だったから五条悟(いつもの姿)と三条悟がイコールで繋がらなかった
・素直で思ったことをちゃんと口に出す子。それゆえに五条はしんだ
・「さとる先生いないじゃん!!夜蛾せんせーの嘘つき!!」
・さとる先生(変装時の姿)を探し回ることになる

五条悟(もしくは三条悟)
・夢主の中学校に出現条件がわからん呪霊が出たので、潜入して祓うタイミングを狙っていた
・黒髪にしていたのは白髪だと目立つからという理由と、夏油と家入がやりたかったから。
・中学校には数学教師の教育実習として行っていたので、適度にフランクだけど回りの先生にはちゃんと敬語使える人を演じていた(夏油と家入の指導の賜物)
・夢主が自分に憧れているらしいとの情報を掴み(夜蛾先生経由)前日はワクワクしてちょっと寝れなかった人
・夢主に「さとる先生」だとわかってもらえなくて泣いた
・「な ん で ! !」

夏油傑(ちゃっかりnot離反ifの姿)
・バタフライエフェクトで離反していないタイプの夏油
・五条の言葉遣いの矯正(強制ともいう)は本当に大変だった
・お返しに変装時の黒髪のスーツの写真はたくさん撮らせていただいた
・夢主にわかってもらえなくてぐすぐすしてる五条を終始笑ってた人
・「昨日は『僕に憧れてる子が入ってくるんだよ!!!どうしよう!!カッコいいところ見せなきゃ!!』とか言ってたのが嘘みたいだね。日頃の態度を改めようか」



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