悟くんの朝ごはん(大人五×年下彼女)

 ぱちり、窓から入ってくる太陽光に誘われて目を覚ます。ちらりと隣を見れば、私の横にあるべき姿は無い。急いでリビングへと向かうと、白のTシャツにスウェットを着た悟さんがキッチンに立っているのが見えた。
 普段は私の方が早く起きるのに、今日は珍しく悟さんの方が早起きだったらしい。悟さんが起きてきた私に気が付き、こちらに声を掛けた。

「なあんだ、もう起きちゃったの?まだ寝てて良かったのに」
「朝日で目が覚めちゃいました。これは……?」
「悟くん作、スペシャルモーニングセットだよ!」

 近づいていったダイニングテーブルにはサラダ、ヨーグルト、ふわふわのフレンチトーストが置かれている。悟さんは最後に飲み物を用意しようとキッチンにいるようだ。目を擦りながら、先にテーブルの椅子に座って彼の到着を待つ。

「……悟さんって、料理出来たんですね」
「僕これでも一人暮らししてるからね?!一通りは出来るんだよ?ていうか僕のことなんだと思ってたのさ」
「え、顔と家柄がいいクズ……?」

 寝起きでまだぽやぽやしてる頭で出した回答はストレートすぎたらしい。紅茶を手にこちらに戻って来る悟さんの笑顔は保たれているが、目だけが笑ってない。

「へぇ、そんなこと思ってたんだ?僕悲しいなぁ」
「あ、いや、それは付き合う前の話で!」
「そ?じゃあ今は?」
「……かっこよくて、優しくて、」
「うんうん、それで?」

 私が答え始めれば、向かいに座った悟さんの表情は先程とは打って変わり、楽しそうに私を見つめている。この続きを言うのはちょっと恥ずかしい。だけど、続きを促されてしまったから。ちゃんと言わなくちゃいけないかな。

「大好きなひと、です」
「僕も君のこと大好きだよ♥よかった〜君にもう一回酷いこと言われたら僕、泣いちゃうところだった!」
「すみません……」
「ま、いいんだけど!でも悪いと思ってるならさ、僕のお願い聞いてくれる?」
「……なんですか」

 悟さんの笑顔がにやにやとしたものに変わる。この顔になった時は何かまた面倒くさいことを考えている時だ。彼の突拍子もない思いつきに振り回された経験は数知れず。今回は何がくるのだろうか。

「君のフレンチトースト、一口ちょうだい?」
「え、そんなことでいいんですか」
「もちろん君からあーんしてくれるよね?」
「そういうことですか……」

 やっぱり普通のことで終わるはずは無かったのだ。言質を取ったと、したり顔でこちらを見てくる悟さんをジト目で睨みながら自分のフレンチトーストを一口切り分ける。そして彼の口に合うよう少し大きめに切ったそれを、今か今かと待ち侘びているその口へと運んだ。

「はい、どうぞ」

 そうすれば、悟さんは蕩けるような笑みで自身の作ったメインディッシュを咀嚼する。ちょっと恥ずかしいけれど、もぐもぐと嬉しそうに食べる悟さんはなんだか可愛い。こんな彼が見られるなら、恥ずかしいのも悪くないかな、なんて。

「ん〜やっぱり君のレシピで作ったフレンチトーストは美味しいね!完全再現できる僕って天才!」
「私のレシピですか?」
「うん。君がいつも作ってくれるやつが美味しいから、僕も作ってみたくて。じゃあ僕からも、ほら。あーん」

 悟さんからも一口分をフォークでもらう。それは私が毎回悟さんに出すものと同じ味だった。悟さんに気に入ってもらえていたなんて、嬉しさに顔が緩む。

「ほんとだ……嬉しいです!ありがとうございます!」
「そんなに喜んでもらえるなんて僕も嬉しいよ。じゃあ他のも食べよっか!」

 お互い「いただきます」をして、本格的に朝食が始まる。彼がくれたフレンチトーストは自分で作るものと同じ味だったけど、彼からもらったこの一口はなんだかいつもより甘いような気がした。



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