日本史研究者(自称)の五条悟がヴァンパイアだった話(現パロ:吸血鬼五×大学生)

 五条さんとの出会い。それは内気で友達の少ない私にとって、当たり前の日常の中に突如現れた光のようなものだった。

 うちの大学の図書館は広くて膨大な蔵書があると、この地域では有名である。私は大抵図書館に入り浸ることが多くて、その日も私は大学にある図書館で調べ物をしていたんだ。
 図書館の自習スペースに本を積み、次回のレポートに書く内容をまとめる。自分の興味のある事柄について調べるのは楽しいけど、それを整理し、発表するとなればまた少し話が違うのだ。必要なことだからしかたなのだけれど。
 内容をまとめていたルーズリーフが埋まってしまったので、新しいものをケースから引っ張り出す。その最中に紙で指を切ってしまった。思ったよりも深く切れていた傷口からじわり、一筋の赤が滲む。借りている本に血がついてしまうなんてことがあってはいけない、そう思っておろおろしていると、横から大きな影が差した。

「手、大丈夫?これ使う?」

 そこにいたのは綺麗な白髪に宝石のような青い目をした男の人。暇さえあれば図書館にいる私だけど、こんな格好いい人は見たことない。差し出してくれた絆創膏にお礼を言えば、さらには私の指に丁寧にそれを巻いてくれる。初対面の人にそこまでしてもらうのは申し訳ない。
 何かお返しをしたいと申し出ると、彼は少し迷った後に「ちょっとお茶に付き合ってほしいな」と言って私を図書館から連れ出した。





 彼か連れて来てくれたカフェは大学の近くの少し裏道に入ったところにある、落ち着いた雰囲気のお店だった。ひっそりと佇むそこは、ウッディーな内装もありなんだか隠れ家みたいだ。
 彼はいつものを二つ、と頼んでいたからおそらくここの常連なんだろう。窓際の二人席に向かい合わせで座る。座ってすぐ彼に見つめられた気がしたけど、すぐに視線は離れていった。それは気にしないことにして、改めてお礼を言おうと口を開く。

「先程はありがとうございました。本が汚れずに済んで良かったです」
「いえいえ。僕の方こそお茶に付き合ってくれてありがとう。君の見てた資料が気になったからお話してみたいと思って誘ったんだ」
「『明治期の日本文化』ですか?」
「そうそう!あれって結構な専門書だから日本史専攻の子かな〜と思ったんだけど、違った?」

 大当たりだ。私は歴史学科日本史専攻の大学三年生。本の専門性が解るってことは、もしかしたらこの人も歴史学に明るいのかもしれない。

「そうです!えと、お兄さんも日本史、お詳しいんですか?」
「あ、名前。言ってなかったよね。僕は五条悟。一応駆け出しの日本史研究者なんだ。よろしくね」
「そうなんですか……!私は卒論に向けて明治期の大衆文化を調べているんです」
「僕の専門も明治期の大衆文化なんだよ!なんだか運命感じちゃうね。わからないこととか聞きたいことがあったら遠慮なく言って。力になれることがあれば協力するよ」
「ありがとうございます!」

 教授以外に専門家の人と知り合えるなんて、なんて幸運なんだろう。私たちは運ばれて来たコーヒーとケーキをつつきながら、早速専門分野について意見を交わし始めた。


 それからというもの、私と五条さんは度々カフェでお茶をしては研究の相談に乗ってもらったりするようになった。連絡先も交換し、カフェでのお茶がランチになったり、夕食になったりもした。五条さんの知識は幅広くて、まるでその時代に生きていたんじゃないかってくらい鮮明に語るからいつも勉強になる。
 それに加えて五条さんは普通の会話もとても面白い。彼との時間が心地よくて、気付けば毎週五条さんに会うのがとても楽しみになっていた。毎回の予定が手帳に書き込まれていく度、自然と顔が緩んでしまう。
 嬉しいことにそれは五条さんも同じだったようで、私たちの関係が「気の合う友人」から「恋人」になるのにそう時間はかからなかった。













 そして今日。何回かのデートを経て、初めて五条さんのお家にお邪魔する。駅まで迎えに来てもらって着いたそこは、煉瓦造りでシンメトリー。少し蔦が這っている壁面も相まって素敵な雰囲気の洋館だった。

「五条さんこんな素敵なおうちに住んでたんですか?!」
「ただ年季が入ってるだけだよ。それよりまた呼び方が『五条さん』に戻ってる。二人の時は『悟さん』って呼んでって言ったよね?」
「あ、すみません……まだ慣れなくて」
「しょうがないな〜中入ったらお仕置きだよ?」

 そんなことを言う五条さんに連れられ家の中に入ると、これまた美しい内装が目に入る。一目見ただけで高価だとわかる絨毯にシャンデリア。まるで日本に西洋建築が入って来た頃の内装のようで、目が奪われる。歴史の史料で見たような空間。明治期の文化を研究している身としては目が釘付けになってしまうのも許してほしいところだ。
 それにしてもお家のに入ってから少し身体が熱い気がする。興味のあるものを見て興奮してしまったからだろうか。

「僕がいるのに家ばっかり気にしちゃってさ……ねえ、こっち向いて?今日はいつものじゃなくて、もう少し大人なキス、してあげる」

 目の前が五条さん……悟さんの顔でいっぱいになったかと思えば、唇に柔らかい感触がする。顎を掴まれて、キスの雨が降ってくる。何回も、何回も、確かめるように。それだけでも恥ずかしいのに、今日は悟さんの熱い舌が頑なに開こうとしない私の口内に入り込もうとしてくる。

「ほら、いい子だから、ん……お口、ひらい、て……?」

 そんな声と同時に悟さんがわたしの耳をすりすりと触るから、それに小さな声をあげてしまう。声を出して少し口が開いてしまった隙を彼が見逃すはずもなく、にゅるりと熱い彼の舌が私のものを絡め取った。

「ん、さと、るさッ……」
「ほら、もっと……舌動かして……そ、上手……」

 熱い、あつい、あつい。私の口内を蹂躙するかのような彼の舌の動きに、身体が熱ってどんどんふわふわとした心地になっていく。大人のキスってこんなに気持ちいいの?これだけでびくびくと感じてしまいそうになるから、本当に怖い。悟さんに翻弄されて、ガクリと体勢崩しても彼が支えてくれて、それが止まることはない。
 始めてからどれくらい経ったのか、悟さんが満足する頃には腰が砕け、私は彼にもたれ掛かってくったりとしていた。

「ふふ、これだけでとろとろになっちゃって本当にかわい〜♥このままだと歩けないから、僕が運んであげるね♥」

 力の入らなくなった身体は悟さんにされるがまま。いわゆるお姫様抱っこをされて、二階の部屋へと連れて行かれる。器用にドアを開けて降ろされたそこは、天蓋つきの豪奢なベッドで。そこではっと我に帰り、身体を起こしてベッドに乗り上げて来た悟さんを見つめる。

「悟さん、あの、ここって……」
「あれ、覚めちゃった?やっぱり強いね〜僕の運命は」

 覚めた?運命?どういうことだろう。彼の家に来たからにはこうなることを覚悟してはいたが、それにしては悟さんの様子がなんだかおかしい気がする。

「運命?どういう、ことですか……?」
「どうって、そのままの意味だよ。君は僕の運命なんだ。君が図書館で指を切ったあの日から、君の香りを感じた時から、僕は君の血が欲しくて堪らないんだよ」
「血……?なん、で……?」
「言ってなかったよね。僕、実はヴァンパイアなんだ」

 きらりと人間にしては鋭すぎる犬歯を見せながら悟さんが微笑む。最初に会ったカフェの日のように、なんでもないかのように、彼がさらっと言ってのけた一言は、私にとってはとても大事なことで。でも、理解が追いつかない。

「家に入った時から身体、熱かったでしょ?それ僕のフェロモンのせいだから。いつもは抑えてるんだけど、今日は君を頂きたかったからいいかなって思ってさ」
「だって、悟さん、日本史の研究者だって……」
「ん、それは半分本当って感じかな。知識は本物。ていうか明治よりまえから生きてるからね。生き地引みたいなもんだよ。で、もう食べちゃってもいいよね?」

 それを聞いた途端、好きな人だというのに、私は恐怖を感じずにはいられなかった。じり、と後ずされば、その分悟さんが距離を詰めて来る。私の小さな抵抗は背中がヘッドボードに当たり、逃げ場がなくなったことで終わりを告げた。

「怖くなっちゃった?でも残念。もう逃してやんないよ」
「ね、悟さん、ちょっと待って……」
「だぁめ。僕ももう我慢の限界だから。大丈夫だよ、ヴァンパイアの唾液には媚薬作用があるから痛くないし。むしろとっても気持ちよくしてあげるよ、ほら」

 そう言った途端、悟さんの息が首筋に当たったと思えば勢いよく牙が突き立てられた。

「ん………………」
「ッ…………!!」

 じゅるじゅると、首筋から血が吸われていくのが解る。血が失われるにつれて、身体は先程の比じゃないほどあつく、敏感になっていく。ほとんど経験が無い私でもわかる。これは、快楽だ。首筋から身体全体に、それこそ毒が回るように快楽が広がっていって、痛いと思っていた首筋も、手のひらに触れるシーツの感触でさえ、快感に変換されてしまう。
 脳髄が痺れるような、自分で自分の制御が出来なくなるような感覚。えっちなことはしてないはずなのに、やっと悟さんが離れた時には、私の息は絶え絶えだった。

「あ〜やっぱり君の血ってば最高♥美味しすぎてもう君の血しか飲めないよ♥それにびくびくしちゃって可愛いなぁ♥」
「ひ、あ……ッ……も、むり……」
「初めてだとキツいよねぇ。でも最強の僕に吸われても意識がある辺り、やっぱり君には素質があるよ。普通の子ならこれだけですぐトんじゃうからさ」
「も、やめ、て……」

 ぺろりと口の端についた赤を舐めながら、悟さんは妖しく、それでいて楽しそうに笑う。もう余りある快楽で頭が回らないけれど、このまま進んでしまうことだけは避けなければいけない。本能がそう叫んでいた。少しでも悟さんから離れようと、力の入らない腕で半ば反射的に彼の胸を押し返す。

「それは無理な相談だなあ。だって僕、まだまだ君の血飲み足りないし。そんなに抵抗したいならしててもいいけど、それもいつまで続くかな?」

 精一杯の抵抗として睨みつけると、ククっと喉を鳴らして悟さんは嗤った。

「いいねその目。でもそれ、僕を煽ってるだけだから。ま、ここからは天国見せてあげるからさ、安心して」

――僕に堕ちて?

 悟さんの纏う雰囲気が一段と妖しさを増す。私を射抜く青い瞳には隠し切れない欲が見え隠れしていて。そんな風に見つめられて、怖いと思うと同時にほんのちょっとの期待を持ってしまったから。
 その時点で勝負は決まっていたのだと思う。私はもう一度迫ってくる彼の牙を受け入れた。





○囲われた夢主ちゃん
・五条のいる場所で血を流してしまったのが運の尽き
・五条の運命(無自覚)
・人間にしては各種への耐性が高い
・そのおかげでヴァンパイア最強の一角を占める五条の行為にも耐えられている強い子
・五条のことは好きなのでこれからは真っ逆さまに堕ちていく未来があるかもしれない

○ヴァンパイアの五条悟
・久々に図書館来たら運命がいたんだけど?(絶対手に入れる)
・カフェで夢主のこと見てたのは魅了(最高レベル)に掛からないかな〜って思ってた。掛からなかった。
・明治以前から生きているので生き地引。知識は本物(うろ覚え)
・この度夢主ちゃんを家に連れ込めてにっこにっこ
・「僕好みに育ててあげるね♥」


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