ラッキーアイテムは扇風機(呪専七×後輩)

 お風呂上りに喉が渇いて自販機まで行った帰り、誰もいない共有スペースに扇風機が一人寂しく佇んでいた。いつもならそのまま通り過ぎるのだけれど、今日の星座占いで私の星座は一位。占いの内容は「今日は停滞したままの恋が進展するかも?!ラッキーアイテムは扇風機!」というものだったから、立ち止まってスイッチを入れた。
風呂上りだからTシャツにショートパンツというラフな格好だけど、今夜は酷く蒸し暑い。これはあれだ、夏恒例のあれをするしかない。私は周囲に誰もいないことを確認すると、扇風機にTシャツの裾をかぶせ、涼しさを独り占めした。実家ではよくやってたけど高専に入ってからはとんとご無沙汰だったこの行為。Tシャツがバタバタとはためいてとっても涼しい。
あ〜〜夏と言ったらこれだよね。私はちょっと実家に帰った気分になったりなんかして、扇風機から送られてくる心地良い風を満喫していた。でも、そうやって気を緩めていたのが良くなかったらしい。その人が私に近づいてくることに気づけなかったのだから。

「貴女、こんな時間にこんな格好で何をしているんですか」

突然後ろから掛かった声にびくりと肩を震わせる。恐る恐る振り返ると、そこには眉間に深いしわを刻んだ七海先輩が立っていた。

「いや〜暑くて涼んでました!」

 なんとか笑ってごまかして、いそいそとTシャツの裾を扇風機から外す。馬鹿な女だと呆れられてしまっただろうか。そんなことになったら泣いてしまう。私の返答が気に食わなかったらしい先輩は益々険しい顔をした。

「こんなところを五条先輩や夏油先輩に見られでもしたらどうするんですか。一瞬で部屋にお持ち帰りされて終わりですよ」
「大丈夫ですって!先輩たちは泊りで任務ですし。それにこんなちんちくりんなんて需要ないんで!」

 先輩にならされてもいいですよ、なんて言う勇気はなくて、ここでもへらっと笑って先輩の言葉を受け流す。どうせ先輩だってそんなこと思ってる訳じゃないんでしょ。脈が無いなんて嫌というほど知っている。

「それ、本気で言ってるのか?」

先輩が珍しく敬語を外したかと思えば、怖い顔をしてこちらに詰め寄って来る。その様子にただならない気配を感じ、本能的に後ずさる。しかし私が逃げることができたのも束の間、膝裏にソファが当たりその場に座り込む。七海先輩はそんな私の上に覆いかぶさるようにして左右の退路を断つと、するりと骨ばった指を私の髪に手を添えながら口を開いた。

「少し濡れた髪、風呂上がりで蒸気した薔薇色の肌。それにそんな無防備な格好をして………私がどれだけ我慢をしてると思ってる」
「は、ぇ?」
「好きな人の無防備な姿を見て何も思わないとでも?私も健全な男子高校生です。本当なら今すぐにでも押し倒してしまいたいくらいなのに」

 ありえない。そう思うけれど、私の名前を呼ぶ七海先輩の瞳は真剣そのもの。ちらりと耳にした「好き」という言葉も、先輩の言った言葉も、信じられないけど信じるしかない。

「私の理性が残っているうちに、早く寮へ戻りなさい」
「ひゃい………」

 取り乱した私が七海先輩の言葉に反応できたのはそれくらいで。忠告通り、七海先輩の腕の中から走って逃げだした。

明日からどんな顔して先輩に会えばいいんだろう。図らずも先輩の思いを知ってしまったから、もう前みたいに馬鹿を言って呆れられてなんてことはできるはずもない。ラッキーアイテムの効果は抜群すぎたようだ。



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