ハロウィンの夜は仮装をして

 


 ハロウィンウィークの半ば、今日の活動も終わりオンボロ寮に帰って来たところだ。グリムはそのままハーツラビュルに泊まるそうなので、今日オンボロ寮に帰ってきたのは私だけ。

 私は黒地に紫のリボンが付いたトンガリ帽子、黒いワンピース、前のリボンを結ぶタイプのマントを着て、グリムとお揃いの大魔法士のコスチュームで仮装をした。
 少し仮装を楽しむ程度だと思ったイベントは予想外に盛り上がりを見せていて、各寮の仮装は完成度が高い。
 ゴーストたちが用意してくれた衣装も素敵だから、ワンピースはもう少し綺麗なものを用意すれば良かったかな、なんて少し後悔する。

 ソファに座りボーダーのニーハイを脱ごうとした時、いつもの声がした。

「お邪魔しますよ」
「あっ、学園長……」

 なんてタイミングで来るんだろう。少し疲れている、こんな時に。
 学園長はといえばいつもの服装とは違い、赤のフリルタイに紫のマントを身につけ、髪は後ろに撫で付けている。普段からしている仮面がやけに似合う格好だ。

 学園長はマントのシワも気にせず、私の隣に腰掛けた。

「おや、まだ着替えて無かったんですか?」
「さっきまで色々あったので。今から休もうと思っていました。」
「それは残念。今日の貴方をもう少し見ていたかったのですが。」

 残念そうに肩を落とすけれど、どこかオーバーリアクションで嘘っぽい。それに先生も仮装をしているじゃないか、と言えば「見せたかったのでいいんです。君だけですよ?」なんて笑うから、なんだか理不尽だ。

「先生、それはなんの仮装ですか?」
「ああ、これですか?ヴァンパイアです。美しい吸血鬼!シェーンハイトくんではありませんが、私にピッタリでしょう?」
「……ソウデスネ。」

 自分で言わなければいいのに。こういうことを言うから学園長は少し残念なのだ。

 ジト目で学園長を見ていれば、琥珀の瞳がこちらを見据える。瞬間、なにかの魔法に掛かってしまったかのように先生の視線から目を逸らすことができなくなった。
 全てのものを惹きつけるかのような雰囲気に、身体が動かせない。そうしているうちに黄金の爪が胸元のリボンに伸びてくる。拒否の意を示すべく、私はその指を留めようとしたけれど、すでに熱い視線に魅入られた私になす術はない。

「Trick yet treat 」
「へ?」

 その言葉を聴いた途端に、ぼふんと背中にスプリングの柔らかさを感じる。目の前には仮面と弧を描く唇。はらりと後ろに撫でつけた髪がひと房、頬に触れた。

「私たちのハロウィンはこれからでしょう?」

 ぱくりと唇を食まれて、息が飲み込まれる。やっとのことで抵抗しようとした手は、絡め取られた。私はきっと、文字通りこの吸血鬼に食べられてしまうのだろう。ここまで来たらもう、後戻りはできそうにない。


夜は、これから。









Trick yet treat
お菓子はいいから悪戯させろ


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