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13.12.2 追記から



「聡、それは恋だよ!!」
「…………」

大きな目を輝かせて楽しそうに言うこの女…ゆりに、俺は呆れてもう何も返す言葉をなくす。いや、返すことが不可能なのだ。俺が長年(そんなに長くはないけれど)培ってきたゆりへの危険レーダーなるものが最大限でサイレンを鳴らしている。

「聡もついに……私嬉しいよ…やっと人になれたね…!」
「元々人だっつの」

ごつ、と頭を叩くとパーマをかけたセミロングを揺らして俺に文句を言ってくる。この元同級生は恋だの愛だの、そいういう話になると口を止められないのが欠点だといつも思う。
こいつも未知の物体に出くわしたかのように目を開き、ゆりをまじまじと見つめている。

「で!君が依子ちゃん!!」
「…は、はい」
「やだ〜声も可愛いっ!私、吉永ゆりって言うの、よろしくね」

吉永ゆりは俺の大学の同級生で、まあ、なんだかんだあって今は美容師をしているのだが、昔の人間で今でも交流がある奴の一人だ。
先日、ついぽろっとゆりにこいつの話をしてしまったところ、何度も会いたい会いたいとせがまれてるようになってしまって、痺れを切らしたおれは仕方なくこいつを連れてゆり会うことにしたのだ。

「さ、聡はもう帰っていいよ」
「は!?」
「ああ、でも依子ちゃんはここら辺はじめてなんだっけ」
「…………はい…」
「じゃあ聡、あそこの雑貨屋さんで依子ちゃんにプレゼント買って来て」
「………オイ、お前マジでいい加減にしろよ」
「わかんないかなぁ、聡は。女同士の話したいから出てけって言ってんの」

顔には出してなかったが声から感じる、ゆりのイライラした様子に僅かな恐怖を覚えて、俺は静かにカフェから出た。綺麗に笑ったゆりから、嫌な予感しか感じられなかった。






□ □ □





第一印象はお人形みたい、だ。
私が聡と仲良さげに話をしていても顔色一つ変えずに、私達を黙って見つめていた。その目には何も映していなくて、なんだか見ているこっちが辛くなってしまった。

聡から藤村依子という女の子の話を聞くのは、あれが初めてではなかった。
私が言えたことではないけれど、聡は他の人とは違う秘密を持っている。それは簡単に人に言えることではないということも私は分かっている。
だから僅かに疑問があった。
生徒に手を出すなんて、まあ、聡ならやりかねないかなぁなんて冗談半分で思っていたのに、まさか本当に生徒に手を出していたなんて思いもしなかった。それに、この子がどこまで知っているかわからないけれど、おそらく聡の秘密について大方知っているのだろう。だったらこの子も少なくとも普通の女の子ではないということだ。
だったら私はこの子を見極めなくてはならない。彼の本当の幸せを一緒に見つけてくれるような人でなければ、私があの人に救われた意味がなくなってしまうのだから。

「…依子ちゃんは、私に聞きたいこと、ある?」
「……特には……」
「聡から、私は同級生だったってことも聞いてる?」
「…はい、でも私には関係のないことですから」

本当に興味がなさそうだった。きっと聡と一緒じゃなかったら、私と会いたくもなかったんだろう。無関心なそれはどこかあの人に似ていて、あの人がこの子を選んだ理由を、少しだけ理解してしまった。

「……私と聡の話をするわね」
「………」
「いえ…あなたに聞いて欲しい、の間違いだわ。ごめんなさい」
「………いえ」
「…私はね、今は美容師をしているのだけど…聡と大学で一緒だったから、教育大卒なの。なりたいものもなくて、どうでもよくって、親の言いなりになる人形で…勉強はできたから親の言う通りに教育大に行ったの」
「……………」
「どうも波長が合わなくて荒れてね…よく夜遊びに出かけていたんだけど、そこで聡と会ったの…ああ、聡は夜遊びなんてしてなかったよ?」

笑って言うと、少し気にしていたのかこの子は少し俯いて瞬きを数回した。
見えてくる。
少しずつ、この子の思っていることが。

「…聡は私のこと、否定も肯定もしなかった。空っぽだな、って肩に手を置いたの。初めて、私のことをわかってくれた人だったの…なんて、自己完結でしかないんだろうけど」

今でも覚えている。
きっとずっと忘れない。同情でも哀情でも軽蔑でもなく、あの僅かな間だけ同調してくれたあの人の手。錆び付いた肩の荷が、消滅していったようなあの感覚。

「…私、それから決心したの。聡を救ってくれる人は、もしかしたらすぐ現れるのかもしれない。でも、あの人が私の肩の荷を軽くしてくれたように、私はあの人に幸せになってほしい。でもそれは私だけでできることじゃない」

きっとこの子もそう。
誰かに、救って欲しいんだ。
無関心で、無感情に見えるのは、見せてるのは、自分が傷つきたくないから、弱い自分を見せたくないから。強いけど、弱くて脆い。
あなたは、あの人にも、私にもよく似ている。

「…依子ちゃん、私は聡と、君の本当の幸いを見つけて欲しいと思ってる」

それは別に難しいことじゃない。
二人が少しだけ素直になれば、そうすれば私が手を貸さなくたってあっという間に気づいてしまうだろう。
どうか、二人に健やかな未来が待っていますように。

「…………あの…」
「…難しい話をしちゃったね!そろそろタイムオーバーみたいだし、今日はこのくらいにしようか!これ、私の連絡先。携帯持ってないって聞いたから、暇なときにでも電話して?」

入口に見えるあの人が、ちゃんと雑貨屋さんの紙袋を持っていることを確認して、くすりと笑った。
私を見る依子ちゃんに、にこりと微笑みながら私はカフェから出る。

あとはよろしくね。






「もしもーし」
「え、またアンタ?もう、しつこい!未成年には興味ないって言ってるでしょ」
「……アンタもあれくらいウブだったらねぇ、」
「…なんでもないわよ、じゃあね奏太」

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