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13.11.4 追記から



「…お前、今回の小テストわざと赤点だったろ」
「…何のこと?」

旧校舎、今は部活動生の物置と化してるその場所に、俺の根城がある。それは少し古びた小さな部屋だ。旧校舎はこの高校の入学者が少なかった頃に使用していたからなのか、どの教室も今の校舎より小さなものだ。だから必然的に、俺が勝手に使用している元保健室も少し小さめだ。
机にパソコンや自前のプリンター、コーヒーメーカーを設置すれば、俺専用の仕事場の出来上がりだ。この頃は、そこにもう一つ、学習机が加わるとこになったのだが。

「理系のお前がこの小テストで赤点なんて取るわけないだろ。ましてやお前のいるA組は進学者クラスなんだからそもそも赤点はいない」
「そうね。赤点はとらないでしょうね。だから私は赤点取ったの。だって、追試があるんでしょう?」

こいつ、なんて奴だ。
小テストと言えど平常点にはかかわるのに、まさか俺との時間が欲しくて赤点を取ったのか。まぁ、こいつには成績なんて関係ないと言ってしまえばそれはそれで納得してしまうのだが。

「でも私、ここの範囲は少し苦手なの。だから追試、受けさせてもらうわ」

そう言って髪を耳に掛け直してゆっくりとシャープペンシルを動かし始めた。こいつの机にはシンプルな白のペンケースと、追試用のテスト、白の水筒がある。水筒の蓋をカップ代わりにして、桃の香りがする紅茶が湯気を出して香りを広げている。こいつとつき合うようになってから、この部屋には度々、桃の香りがするようになった。
俺はブラックコーヒーを飲んで、カタカタとパソコンのキーを打つ。静寂、桃の香りとコーヒーの香りが、なんとなく心地よい。








「…採点お願いします、先生」

俺の作業がひと段落したぐらいに、あいつはそう言ってテスト用紙を机においた。思えばこれは正式な小テストの追試なので、時間をとりすぎると他の生徒との差ができるので眉を顰めていると、ちゃんと10分計ってしたわ、と机にある腕時計を指差して答えた。

「…そういえばお前、携帯持ってないのか?」
「え?」
「いや、お前が携帯弄ってるの見たことないから、気になって」
「………持つな、って言われてるから」
「ふうん、まあいいけど」

それきり会話は進まず、こいつは紅茶を飲みながらペンケースやら水筒やらを鞄の中にしまう。俺は結果が明確であろうこいつの小テストに、赤ペンで丸をつけていく。

「これ本当に10分でやったのか?」
「当たり前でしょ、そもそも五分で終わったわ」
「…俺の作業終わるまで待ってたのか」
「そうよ。仕事の邪魔はしたくないもの」

秋めいた今日この頃、この旧校舎は決して丁度いい気温ではない。作業をしながら暖房の導入を考えていたところなのに、こいつはずっと待っていたっていうのだろうか。やはりこいつの思考は俺には理解できないもののようだ。だから興味が湧くのだが。

「呆れた…先帰れよ」
「だって、あなたを見つめていたらいつの間にか時間が過ぎて」
「あっそ」
「あっ、照れたわね」

おもしろそうに言うこいつの頭をペンで軽く叩き、何も言わずに満点の小テストを返す。こいつ、苦手ってやっぱり嘘だろ。
パソコンやプリンターの電源を落として、上着や鞄を手に持つ。帰るの?というこいつの反対方向を向いて校舎裏の道路で待ってろ、と早口に言うと照れたようにありがとう、と小声が聞こえて、また貴重な顔を見逃した、と少し残念に思えてしまった。

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