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13.9.23 追記は

「私って病気なんですって」

真面目な顔でそう言うから俺は目を丸くしてしまった。
古びた椅子に座って窓を見つめるそいつは日の光に照らされて目や髪がきらきらと光っている。
確かに、そいつの黒く長い髪は妖艶で少し不気味だったりする。それに日の光に当たったことの無いような、陶磁器のように白い手足は病気なんじゃないかと疑ってもおかしくはない。

「は?病名は?」
「さぁ、わからないわ…でもみんなそう言うの。私はおかしい、変な病気にかかったんだって」

なんだ。そういうことか。心配して損した。
教室に風が入ってきて、端に寄せていたカーテンがふわりと浮く。その拍子にそいつの髪もふわりと靡いて、普段は隠されている首や耳が露わになる。それは白く病的で、一通りそいつを見た俺はやはりこの存在も危ういのだと心の何処かでぼんやりと考える。

「…先生?ちゃんと聞いてる?」
「ん?あ、ああ」
「…聞いてなかったでしょう」

そいつが少し眉を寄せて険しい顔をする。ああしまった。機嫌を損ねてしまったか。本当に「コレ」は扱いが面倒臭くて嫌になる。だがしかしそこも面白いのだから自分の性癖はやはり異常だ。

「私以外に先生を虜にする何かがあったの?それってなあに?埃?」
「埃って…馬鹿かよ…そんなわけねぇだろ」
「だって先生、前に言ってたじゃない。小さくてすぐ消えちゃうようなモノを見てると全身の血が騒ぐって。それってそういうことでしょう?」

ゆっくり、甘い声でそう言いながらパイプ椅子に座っている俺に近づくそいつ。白い手が俺の太ももに伸びてゆき、耳元で囁かれる。桃の匂いがするそいつの肩にゆっくりと顔を埋める。
俺がどこにでもいるような男だったらこの状況に耐えられないのだろうか。まぁ、そんなことどうだっていいのだが。

「駄目よ。他のモノに夢中になっては駄目。貴方は私の特別で私も貴方の特別なの。そう決まってるの。だから他のモノに目を奪われては駄目。私の虜だって、この前言ってくれたじゃない」

目を閉じて、桃の匂いを鼻一杯に吸い込む。そいつの、年齢にしては低めの体温がとても心地よく、ごわごわとする制服の感触、絡まりがない真っ黒な髪。ああすべて、俺の理想の、個体。

「…お前、髪伸びてる。一センチ」
「…ああ、ごめんなさい。気づかなかったわ」
「気をつけろよ…あとそれ以上太るな。痩せるな。肌焼くなよ」

他にもぶつぶつ細かいことを言っていると、そいつは急にくすくすと肩を震わせた。あ、貴重な笑い顔、見逃した。

「そんなに今の私が好き?…いえ、この個体が好き?本当に貴方って、物しか愛せないのね」
「何を今更。言っただろ、俺は人も動物も愛せない。静物専門」
「矛盾ね。私は動くし人よ?」
「そういう人形だと思ってる」
「最低。じゃあ中身なんかどうでもいいのね」
「いやぁ、それがおまえばっかりはそういう訳じゃないらしい。うまく説明できないが。それに、お前だって相当トんでんぞ」

頭のネジ。
そう言うとそいつは綺麗に笑って俺から退いた。
計算し尽くされ狂いのない容姿、そう、まるで本当の人形のようなそいつはスカートを揺らして言った。

「そうね。貴方の為だったらいつでも死ねるし、なんだって出来る。私を破棄したら、地の果てまでいつまでも追いかけてあげる。ロマンチックで、素敵でしょ?」




∴過去も現在も未来もお前に食い尽くされてしまうなら幸せだろうよ/告別

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