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14.7.5 追記から





「依子ちゃんが学校に来てない?」

あいつと俺があんなことになってから、あいつは学校に来なくなった。
しばらく経っても登校してこないので少し不信に思えて、仕方なく、非常に仕方なく俺は腐れ縁のゆりに相談することにした。

「いつから…」
「一週間前だ。家に電話してもハウスキーパーが体調が優れないの一点張りで、電話に出させないんだよ」
「……それはちょっと疑うべきかもね…」

元来、あいつは体が弱そうに見えて実は結構強かったりする。以前、虫歯になったことも風邪を引いたこともないのよ、と珍しく、俺にしかわからないぐらい僅かに自慢げな顔で俺に話をしていたのが記憶に残っている。
何より、あいつの家は少々面倒くさくてややこしい。仮病を使って休まれても、学校側ははいそうですかで済まさなければならない。

「お家に訪問とかは……」
「…無理だ。名の知れた家だからな、学校も慎重になってんだよ」

そういうとゆりも言葉を詰まらせ、考え込んでしまった。
学校側の意見なんて無視して突撃しちゃえばいいじゃない!だのと言い出しそうだと思って相談しなかったのだが、さすがにもうそんな無鉄砲は言い出さなかった。

「………ねぇ聡、本当に依子ちゃんがなんで学校休んでるのか、分からないの?」

はっとした。
ゆりは俺やあいつの詳しい事情は知らないはずなのに、俺の思考を読み取られたかのように思えたからだ。

あいつは病気なんかしない。
学校は嫌いじゃないはずだ。
じゃあ、あいつが何日も学校ややすむ理由は?

きっかけは俺とのあのいざこざかもしれないのだ。
自分は物じゃないと、弱々しくも強い主張をしたあいつ。
それが少なからず、連続欠席の原因になっているなら……

「……俺は、あいつと離れた方がいいのかもしれない」
「………聡?」
「わからない、わからないんだ………なにがわからないのかも、わからない……」

臆病なあいつが、あんな震えた声を出してまで俺に伝えたこと。
それを俺はどう受け止めればいい。
あれからずっと収まらない、胸が焼けるようなこの気持ちを、あいつのことを考えるだけで引き裂かれるように痛む体のどこかを、抜け出せないこの拷問のようなループの出口を、どうやって探せばいい。

あいつは俺に何を望んでいる?

「…聡、それは、依子ちゃんが変わった証拠よ」

ゆりは優しい透き通るとような声で穏やかに言った。

「あなたと依子ちゃんがどうして一緒にいるのか分からないわ。でも、気難しいあんたにあれだけ懐いてるなんて、2人には余程のことがあったんでしょう?でも、その頃の依子ちゃんと今の依子ちゃんはちょっとだけ違うんじゃないかしら」

俺と出会った頃のあいつはとにかく暗かった。
クラスに馴染めないというより馴染む気がなく、誰に心を開くわけでもなく、家の言いなりになるただの生徒だった。
でも違った。そんな状況だからこそあいつは自分の意思をしっかりと持っていた。それでも他人に頼ることはなかった。
だから傍に置いた。誰も頼らないから、あいつの思いはひとりよがりなものだから。俺はただ流れていればよかった。
理由をつけるなら、クラスを離れた生徒に高校三年間でいい思い出くらい作ってやるかくらいの勢いだったのだ。

それなのにどうして俺はあいつにこんなに苦しめられなきゃいけない。
あいつのひとりよがりな思いに、どうして俺自身がこんなに、こんなに……

「ま、喧嘩なら早く原因見つけて謝ることね」

ゆりは最後に聡には幸せになって欲しいのよ、と温かい声で言い電話を切った。

あいつは、変わったのだろうか。

心当たりがないわけではない。
だとしたら、俺は、真っ当に生きようとしてるあいつの傍から離れるべきなのかもしれない。
我ながら自分は学校という場所ではイレギュラーな性格、生い立ちだ。教師をしていることがおかしいくらいなのだ。
あいつが普通に暮らして普通に幸せになるのなら、それは教師としても俺自身としても喜ばしいことなのだ。

「…………………」

ふとある感情がよぎって、胸の痛みがまたひどくなる。



嗚呼、俺は、酷く馬鹿げてる。



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