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14.5.21 美術部



瑛太くんへ

臆病者の私はきっと口では言えないので、手紙にしようと思います。
瑛太くんに伝えたいことはまだまだ沢山あるのに、どうやって伝えたらいいのか、伝えていいのかとても不安です。
だから、私はここに残しておこうと思います。

瑛太くんの絵に初めて会ったのは、私が中学三年生の時です。
その絵はフリーのお題で、瑛太くんは「きぼう」という絵を描いていました。私はその絵のことを今でもはっきり覚えています。
この子は私より年下なのに、どうしてこんな絵が描けるのか。なんて綺麗で鮮やかな色使いなのか。暖かくて、心の汚ないところをすべて浄化してくれたようなその絵に、私はとても感動して、陶酔しました。
黒田瑛太。私は書かれていた名前を目に、頭に焼き付けていました。この子の描く絵をもっと見たい。この子の世界を見てみたい。私のそんな考えは日が経つに連れてどんどん大きくなって行きました。

高校二年生になって、たまたま瑛太くんがこの高校に入学していることを知りました。
あれ以来一度も瑛太くんの絵は見たことがなかったので、とても嬉しかったです。あの子にまた会えるなんて、あの子の絵はどんな風になっているのか、油絵を始めたりしていないか。
私は瑛太くんのことばかり考えていました。
初めて話した瑛太くんはとても生意気で、あの絵とは想像できないくらいチャラくて意地悪でした。
それに、もう絵は描かないと言っていて、とても悲しかったです。
私の勝手な押し付けだけど、瑛太くんの絵は私の理想で希望だったから。瑛太くんの世界を見たくて私は、あの日からずっと瑛太くんの世界を探していたのよ?
自分勝手だけれど、ショックで、ガッカリもしました。
その日はとても悲しくて眠れませんでした。

次の日、私は決心しました。
瑛太くんに描かせてみせる、瑛太くんの絵を見て私は世界が見つかった。自分の描きたいもの、見せたい色。
それなのに、その瑛太くんが今は色を失った世界で一人孤独でいる。
そう考えたら胸がとても苦しかった。それは、私も経験したことがあるものだったから。それがどんなに寂しく虚しいことか分かっていたから。
それに、あなたの世界を沢山の人に見て欲しいと思ったから。あなたは、描くべき人だと確信していたから。
それが私にとって辛いことでも君を支えようって、そのときからもう覚悟を決めていました。

瑛太くんと向き合ううちに、私はだんだん瑛太くんに特別な感情を抱くようになって行きました。
瑛太くんを見ると胸がとても高鳴って、顔が熱を持って、瑛太くんが笑うととても嬉しかったの。
それがどんな感情なのか分からないほど、わたしは子供ではありません。
それでも伝えてはならないと思いました。
私は瑛太くんを幸せにしたい。目先の幸せではなく、本当の、瑛太くんにとっての幸い。
そのために、それはいらない感情だと思いました。だから、どんなことがあっても私は瑛太くんに自分の気持ちを言わないと決めました。瑛太くんのことを避けたり、瑛太くんに嫌われてもらうように、私なりに頑張っていました。
それでも、瑛太くんの存在は日に日に大きくなっていくし、思い出も増えていきます。

わたしは、どうすればいいのかわからなくなっていました。

(後半に続く)

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