捧げ物 | ナノ



最近、ランちゃんからのスキンシップが激しい。


いや、実は最近俺たちの関係にとある変化があったから、多少は態度が変わってもおかしくないんだけど。最近のランちゃんの変わりようは「多少」というレベルじゃない。ホントにランちゃん?あのツンデレなランちゃんなの?と問いただしたくなるくらい、でれっでれなのだ。


「あの…ランちゃん…」
「んー…」


昨日の朝だって、優しく俺を起こしてきたと思ったら、「俺はもう出るから」なんて言って、キスをひとつして出て行った。びっくりして一気に目が覚めた。

帰宅は俺の方が遅くなって、ただいまと行って部屋に入った瞬間、ドアに腕を押さえつけられた。そしてやっぱりそのまま唇の自由を奪われて、聖川が帰ってくる直前になるまで離してもらえなかった。


今だって、ベッドの上で後ろから抱きしめられている状態だ。ぎゅっと力を込める男らしいその腕に、どきどきして仕方がない。いつもあんなに素っ気ないのに、今はまるでペットを溺愛する飼い主のようだ。そのうえ後ろから俺の首に顔を埋めているから、時折ランちゃんの鼻が首筋をくすぐって、変な気持ちになってしまう。俺がびくりと肩を揺らすと、それを楽しむようにランちゃんの唇が首筋を軽く食む。


「んん…っ」


それに思わずくぐもった声が漏れてしまった。すると今度は舌を這わせてくる。ぬるりと唾液の感覚がして、熱い舌がちろちろと俺の首を舐める。くすぐったい。気持ちいい。あ、ダメ、駄目だ。


「あっ、ちょ、待って…!ランちゃん…!」
「……嫌か?」
「いやじゃ…ないけど…っ!」


ランちゃんは一端首から口を離すと、俺の頬をつかんで、今度は唇にキスをする。後ろから抱きしめていた姿勢は段々と崩れていって、とうとうベッドへ押し倒されてしまった。腕を押さえられて、息ができないほど深く強く、唇を重ねられる。さっきまで首筋を撫でていた舌が、口の中でくちゅくちゅと水音を立てる。


「…あっ…ら…らん、ちゃん…っ!」


待ってと言っても止まらない強引なキスに、ろくな抵抗も出来ずに段々と思考が奪われていく。目の前の快楽とランちゃんのことしか考えられなくなる。そんなぼんやりとした頭で、ふと数日前のことを思い出した。










────




「あのね、好きなんだ…」


マスターコースに入って再会してからずっと秘めていた思いを、先日ついに告白してしまったんだ。ランちゃんのことが好きだってこと。先輩としてじゃなく、恋愛対象として好きだってこと。


「…………」
「…っ…その…」
「……レン、」


断られるのも大いに覚悟していた。だけどランちゃんの行動は意外なものだった。イエスともノーとも言わないまま、ただ俺に、キスをしたのだ。

突然だった。気付いたら背後が壁で、肩口を押さえられていた。角度を変えたランちゃんの顔が目の前にあって、唇にやわらかい感覚。一瞬何が起きたのかわからなかった。しばらくして離された唇は唾液で少し湿っていて、生々しい感覚にカッと顔があつくなったのを覚えている。


「…っ!」
「…いいぜ。付き合ってやっても」
「っ、へ…!?」
「んっ」


ランちゃんはそう言ったかと思うと、また俺の唇に噛み付く。何度も何度も。ちゅっちゅ、とリップ音を立てて。歯がぶつかりそうなほど乱暴なキスは段々と色めいたそれになって、漏れる吐息に、伝う唾液に、俺は興奮せざるを得なかった。


「はあっ…はあっ…はぁ……」


散々に口内を弄ばれて、ようやく解放される。ランちゃんは顔を離したと思うと、ぼそりと一言。「明日も早ぇから、寝る」と、それだけ言って自室に戻っていった。

背を壁に預けたままずるずるとその場へ座り込む。まだ呼吸が整わない。心臓がばくばくとうるさくて仕方ない。──いきなりキスされるだなんて思わなかった。それも、あんなキスを、ランちゃんにされるだなんて。そもそも告白の返事すら聞いていないのに。これは"イエス"ということでいいの?


「……わけ、わかんないよ…ランちゃん…」












───



そう、あのときから始まったんだ。ランちゃんのデレ期が。ことあるごとに抱きしめられ、口付けられ、時には体に触れることもあった。もちろん嬉しい。好きな人にそんなことをされて、嬉しく思わないわけがない。すごく嬉しいんだけど…。


「ランちゃん…ね、待って……あ、」
「ん……」
「だからっ…、!」


制止の声を上げても止まらないキスはどんどん激しくなっていく。口を大きく開けたまま上唇を食まれ、そのまま舌で裏側から歯列を舐められる。もう顔は垂れる唾液と滲む涙でぐちゃぐちゃだ。

そのうえランちゃんの手が俺の服の裾から侵入してきた。硬い指先が腹筋を撫でていって、脇腹からあばらをなぞり、シャツを捲らせながら上へと伸びてくる。

大きなてのひらが俺の体をまさぐる度、その感覚が気持ちよくって、ろくな抵抗もできやしない。自分が快楽に弱いという自覚はある。だからこの数日間、ランちゃんからの過剰とも言えるスキンシップを拒否することができなかったんだ。気持ちいいことは好きだ。ランちゃんとキスすることも。…だけど、こんなのは、駄目。


「──……っ!」
「! レン…!?」


ランちゃんが驚いた声を上げる。珍しく慌ててるみたいだ。それもそうか。突然泣きだしたりしたら、驚くよね。

でも涙はとまらなくて、ぽろぽろと目から溢れ出しては、重力に従って目尻からこめかみを伝って流れ落ちていく。どうして泣いてるのかって?そんなの、悲しいから。どうして悲しいのか?そんなの…


「…っ…」
「レン…嫌、だったか?」
「…ねえ、ランちゃんは…俺のこと、どう思ってるの…?」
「…は?」
「好き?嫌い?…それとも、性欲処理できたらいいのかな」
「なっ…!」
「だって、俺、まだ返事、もらってないんだよ…!」


──そう、ずっと不安に思っていたのは、このことだ。

俺が告白したあの日から、ずっと返事は貰えないままで。なのに抱きしめられキスをされることが、ずっと引っ掛かっていたんだ。こうやって返事をあやふやにされたまま、体だけの関係になってしまうんじゃないかって。

今までの自分なら、それでも良かったのかもしれない。だけど、こんな恋愛は初めてだから。


「ランちゃんのこと…好きだから…。本気で好きだから、だから…ちゃんと好き合った上で、こういうこと、したいんだ」


ずっと思っていたことを吐露してしまうと、ランちゃんはしばらくの間俺を見つめて、そして今まででいちばん優しく抱き締めてくれた。


「ランちゃん…?」
「んだよ…とっくに伝わってるって、思ってた」
「えっと…」
「…好きだ、レン」
「!」
「そうだよな…言葉にしなきゃ、伝わんねぇよな」
「ランちゃん…」
「好きだ。俺だってずっと…。お前から告白されてからもう、歯止め効かなかったんだよ」


「好きだ」、と。面と向かってそう言ってくれたランちゃんの顔は、すこし恥ずかしそうに赤らんでいた。今まであんなキスをしても、顔色ひとつ変えなかったくせに。

つられてこっちまで照れてしまって、二人して沈黙のままうつむいた。胸がどきどきしてる。ランちゃんも、俺のことが好き…。そっか…そっか。ずっと同じ気持ちだったんだね。どうしよう、思わず顔が緩んでしまうほど嬉しい。もしかしたら好きじゃないのかもと胸を渦巻いていた不安が、一気に晴れていくのが分かる。


「…ランちゃん…」
「あああ…!もう泣くなよ…」
「だって…嬉しくて…」
「おら、…ん」


ちゅっ、と音を立ててキスをひとつ落とされる。それはもう何度もしたキスなのに、今までよりとびきり甘かった。

そのまま涙を拭うように目尻や頬に口付けられて、くすぐったさに身をよじると、それを追い掛けるようにランちゃんがまた唇を寄せる。ついくすくすと笑い声が漏れてしまって、額を合わせて二人で見つめ合った。


ねえ、なんて幸せなんだろう。


「…ところで」
「ん?」
「俺の気持ちも伝わったことだし。してもいいよな?"続き"」
「へっ?」


"続き"…っていうのは、さっきの続きということだろう。さっき押し倒されて服の中に手を入れられたところまで思い出して、思わず顔が熱くなった。


「やっ…!やっぱりまだ早いんじゃないかな…!ほら、まだ付き合って数日…」
「んー、駄目だな。もう我慢できねぇわ」
「まっ、待って…!」
「無理。…だって、お前のこと大好きだし?」
「……っ!!」


ランちゃんはそう言ってニヤリと口角を上げる。俺はいつの間にかまた押し倒されていて、手首はしっかりシーツへ縫いとめられていた。

そんな。そんな…ずるいよランちゃん。そんなこと言うなんて。確信犯でしょ。今度こそ抵抗する気になれなくなるじゃない。


「ランちゃん…」
「ん…愛してる、レン」
「……俺も愛してるよ」


まあ、いいか。そうだね。俺もランちゃんのこと大好きだから。言葉だけじゃ、伝わらないほど。




伝わらないほど愛してる










─────
駄目だ…もう駄目だ…何回キスさせるんだ…何回レンちゃん喘がせるんだ私…!でも書くの超楽しかったです…!

ということで、8000打記念にキリリク頂きました、満月さまに捧げる蘭レンです。今持てる渾身の力で精一杯甘くしたつもりです。よかったら貰ってやってください…。





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