捧げ物 | ナノ



(ああ…つまんないなぁ…)


「はいレディ、120円のお釣りだよ」


また来てね。レンレンが片目をつむってそう言うと、その「レディ」は彼のてのひらごとお釣りをがっしりと受け取り、よろめきながらも語尾にハートマークを付けて「はい」としっかり返事をする。


「ありがとうレディ、愛してるよ」


営業用には見えない甘い笑顔でそう囁けば、目の前の女性は遂にくらりと倒れ、周りからひときわ大きな黄色い声が上がった。そしてそれを聞き付けた人たちが、何だ何だとまたこちらにやってくる。──寿弁当には、かつてないほどの若い女性の行列ができていた。


(まあ、レンレンは女の子の期待を裏切るような真似できないよねぇ…いやでもさ…もうちょっと何とか…)


「ちょっと嶺二!止まってないで手ぇ動かしな!」
「いったー!ちょっと姉ちゃ〜ん!殴ることないでしょー!」


少し考え事をしていると突然姉ちゃんに頭を殴られた。抗議の声を上げたものの、こうしている間にもどんどん人が増えているので、いつまでも手を止めているわけにもいかないのは事実だ。はあ、とため息を一つついて仕事を再開する。かわいい恋人の背中を見つめながら。




───



「いやあ〜お疲れ様、レンレン」
「お疲れ様…ふう、さすがに疲れたよ」


ピークを越えたときにはお客さんもほとんど見えなくなり、弁当の量も底を尽きかけていたので、僕たちはそのまま店の手伝いを終えることにした。

そう、レンレンは今日僕の実家──寿弁当の手伝いに来てくれたのだ。なぜこんなことになったか。きっかけは昨日の夜、レンレンから僕に来た一本の電話だった。


「明日オフになったんだけど……どうかな?」


どうやら急に仕事の日程が変わったらしい。明日は実家を手伝いに来いと言われていたのだが、電話で控えめにそう言った愛しい恋人を無下に断ることはできなかった。最近ただでさえ忙しくて会えていない。それでつい「よかったら家に来ない?」なんて言ってしまったのだ。

するとレンレンは意外に興味を持ったようで、すぐに了承してくれた。本当は店の手伝いまでさせるつもりはなかったのに、本人の「俺でよかったら手伝わせてよ」という要望もあって、忙しさもあったため結局手伝ってもらうことになったのだ。


──それにしても、レンレンがレジに立っただけでこんなことになるとは。

僕が表に出ててもここまでなったことはないのに…どういうことなの…と思ったが、お客さんの会話をよく聞いていると「あれって神宮寺レンじゃない!?」「ぴぎゃああああ」という声だけでなく、「何あのイケメン店員!?」「知らないけどなんかアイドルらしいよ」という声も聞こえてきたので、おそらく彼にはアイドルとしてだけでない人気もあるのだろう。さすがというか何と言うか、自分を魅せる才能は誰よりもあるのだと実感する。


「それじゃ、僕ちんの部屋、来る?」


何はともあれ本来の目的はこっちだ。気を取り直して、笑顔でもちろんと答えるレンレンを自分の部屋までエスコートした。


















「へえ…いい部屋だね」
「でっしょー?まあくつろいでいっちゃって〜」


僕の部屋を見渡してそう言うと、レンレンはふう、とため息をついて窓際のベッドに腰掛けた。窓の外ではもう日が傾きかけていて、オレンジ色の光が室内に射し込んでくる。その光を受けて輝くレンレンの髪が愛おしくて、思わずぎゅっと抱き締めた。


「わっ、ブッキー、」
「ん〜レンレン髪さらさらだぁ」


レンレンの上に跨るようにして首に腕を回し、頭に顔を埋める。夕陽よりも綺麗なオレンジ色の髪に指を通すと、見た目通りにさらさらで、さらにそこからふわりと甘い香りがした。


「え?あっはは、あ、もう、くすぐったいよ」
「……えいっ」


そしてそのままぎゅーっと抱きついて、その勢いでベッドに押し倒す。わっ、と驚いてベッドに倒れたレンレンの頬にすかさずちゅっとキスをすると、「もう、何するの」なんて言いながらも、レンレンはクスクスと楽しげな笑みを浮かべていた。


「んっ…」


頬に、額に、目元に、首筋に、てのひらに。色んなところにキスを落とすと、レンレンは抵抗一つせずにそれを受けて、その度に目をぎゅっとつむって顔を赤らめていった。そういえばこの前「キスするのは良いけど、されるのは恥ずかしい」なんて言ってたっけ。きっと今も恥ずかしさに耐えてるんだろう。


「んもう…かわいいっ!」
「あっ…もう…」


もう一度ぎゅっと抱きつくと、レンレンは照れたような困ったような声を出すけれど、やはり抵抗する様子はない。それにつけこんでしばらく思い切り抱き締めていると、不意に服の裾が引っ張られる感覚がした。見ると、レンレンが遠慮がちに僕の服の裾をつかんでいる。


「どうしたの?」
「………」
「ねえ、レンレン?」
「……その…」


なにやら口籠もっているレンレンを催促すると、言い辛そうにしながらもそっと人差し指を自分の唇に当てて、「ここには、しないの?」とそう言った。

その表情は、さっきまで女の子たちの相手をしていた時のものとあまりに違っていて──僕は思わずにやけてしまう顔と声を押さえることができなかった。


「ふっふふふ、」
「な、なに?ブッキー…」
「ちがっ、ごめん…嬉しくて…!」


こーんなかわいいレン、ファンの子たちは知らないんだろうな、ってさ。そう言うとレンレンは顔を更に真っ赤にして目を逸らした。だけど僕はその視線を自分の方へ戻すように頬をつかんで、望み通り唇にキスをする。ちゅっと音を立てて、やわらかいそこを貪るように何度も唇を重ねる。


「んあ…っブッキー…」
「かわいい…僕だけの、レン…」
「…!ん…れいじ…」


必死になって首に回される腕も、慣れない呼び名で僕を呼ぶ声も、唾液で湿った艶やかな唇も、全部僕だけのものだ。ファンの子たちにも他の誰にも渡さない。今このときの神宮寺レンだけは。


「はっ…はあ、はあ……ねえ、ブッキー」
「ん、…なあに?」
「もしかして…妬いてるの…?」
「!」


長いキスを終えたあと、息を整えながらそう指摘したレンレンの言葉に、僕は思わず目を見開いた。ああ今のキスで、伝わってしまったのかな。


「…そうだね。ちょっと妬いた」
「そっか。…ごめん」
「んーん?いいんだ。だってね、」


だってレンレンは僕しか見えてないし、僕のものでしょ?

にっこりと笑って当然のようにそう言えば、レンレンは一瞬目を見開いたあと、困ったような照れ笑いを浮かべた。そして「そうだね」と言ってクスクスと楽しげな笑い声を漏らす。


僕の愛しい恋人。そりゃあ少しは嫉妬しちゃうけどね、君がどれだけファンの子たちに愛を囁いても構わないんだ。──そう、恋人としてのこんなかわいい君を独占できるのは、僕だけなんだから。



僕だけのsugar*sweet





───
「夢を見るアナタと‥。」様との相互記念に、満月さまへ捧げる嶺レンです。改めまして相互リンクとリクエスト、ありがとうございました!
初めての嶺レンを書いてみた結果、レンレンさんのかわいさを全面に押し出すことになってしまいました(笑)この2人かわいいですよね!あだ名組とでも言うのでしょうか。





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