捧げ物 | ナノ



「これ…観覧車?」
「そう!これなら休めるし〜、ちょうどいいかなって!」


ジェットコースターに比べると行列も少ないし、楽しげな親子やカップルが並んでいるのを見ると、今度こそ本当に危険なものではないことが伺える。男二人で観覧車というのもアレかもしれないが、そこは気にしなければ無問題だ。


「ねっ、レンレン──ってあれ?レンレン?」


隣に並ぶレンレンの顔を覗き込むと、彼はなんとも言えないような、しいて言うならば緊張でもしているような表情をしていた。不思議に思って声をかければ、レンレンはただハッとして微笑むだけ。


(………?)


しかしこうしている間に順番が回ってきたので、とにかく僕たちは観覧車の中へ入った。従業員のお姉さんの笑顔に見送られて扉が閉まると、そこは2人だけの密室空間になる。とはいえ片思い中の学生じゃあないんだから、そんなに緊張するほどでもないはずだ。


「……レンレン?どうしたの?」
「えっ!?い、いや何でもないよ?」


レンレンの様子は変わらず、なんだかそわそわとして落ち着かないみたいだ。もしかして高い所苦手だった?と聞いても「いや…そうじゃなくて…」と答えるだけ。だったらどうしたんだろう。ていうか、さっきから目が合わないんだけど。


「レンレン?どうして…まさか僕に愛想尽かしてっ…!?」
「ちっ、違う!そうじゃなくて…その…」


レンレンは再び口籠もると、何かを言いたげに口を開閉させるが、また気まずそうに目線をそらす。あれ?でもよく見ると気まずそうって言うより…照れてる?


「レンレン?…なんで照れてるの?」
「っ!や、これは…!」


そう指摘すればレンレンの頬はさらに赤くなる。こんなに焦っている彼を見るのは初めてかもしれない。少なくとも、絶叫系を平気で乗り回していた今日のレンレンからは、想像できない表情だ。


「あの……だって…」
「ん?」
「……するんでしょ?」
「え?なんて?」
「だからっ…キス、するんでしょ?」


次にレンレンの口から出た言葉は、予想外のものだった。唐突過ぎて瞬時には理解が追い付かない。え?キス…?


「え…!?」
「え?だっ、だって、観覧車ではてっぺんでキスするものだって…」
「……それ、誰に聞いたの?」
「ランちゃん」
「ランラン…!」


それを聞いてやっと理解した。どうやら自分の同僚による悪質な入れ知恵があったようだ。なんでランランがそんなロマンチックなことを…と思ったが、きっと、と言うか100パーセント僕たちをからかうためだろう。


「ていうか、レンレン観覧車に乗るの初めてなの?」
「うん……というか、」
「うん?」
「こういう場所自体、今日が初めてかな」
「え!?そうなの!?」


それを聞いてまた驚かされてしまった。え?だってキミ、平気で絶叫系乗り回してたよね?僕より慣れてそうだったのに?


「だから…実は、ランちゃんに相談してたんだ。遊園地でデートするときに、心得ること」
「そ…そうなんだ…それで?」
「『絶叫マシーンは全部乗れ!んでとりあえずホラー系行っとけ!』って」
「くっ…ランランの仕業か…!」
「それで、『ああ、観覧車ではカップルはてっぺんでキスするのが決まりだからな。忘れんなよ』って…」
「完全にからかわれてる…!」
「…そうだったの?」
「気付かないレンレンもレンレンだよ…」


これでやっと謎が解けた。そうか。レンレンは今日、全部ランランの言う通りに行動していたのか。やたら絶叫系に乗りたがっていたのもこのため。ジェットコースターに目を輝かせていたのは、きっと初めて乗ったからなんだろうな。


「でも、どうして相談なんてしたの?初めてでも別に僕気にしないよ?」
「それは…だって…」
「?」
「久しぶりのデート…だから、成功させたかったから…」


顔を赤くして呟くようにそう言ったレンレンは、今日一日の様子からは想像できないくらいに、可愛くって。きゅんと締まる胸に込み上げてくる衝動に任せて、僕はぎゅーっと彼を抱きしめた。

僕の腕の中に収まったレンレンは、戸惑っているようだけれどそれでも抵抗せず、ゆっくりと僕の肩に腕を回す。

ああ──本当、愛おしいなあ。伝わる心音はとくとくと早くて、体温はあたたかい。

レンレンを抱きしめたまま、ふと窓から見える景色が地上から随分と遠いことに気が付く。後方を見上げると、既に頂上付近まできていることが分かった。


「ねっレンレン、準備はいーい?」
「え…?」
「するんでしょ?キ・ス」
「っ!」


レンレンの上に跨った膝立ちの態勢で、彼の頬を両手で包み込む。ゆっくりと高度を上げる観覧車に合わせるように、だんだんと顔を近付けていき、レンレンが目を閉じたのを見てから、その唇に触れた。

一度触れ合ってしまうと、糸が切れたように抑えが利かなくなって、何度も唇を合わせてその度に深いものになっていく。彼の口から漏れる吐息も、声もすべてが愛おしい。

途中で一旦唇を離して、ちらりと上のゴンドラに視線をやりながら、息を荒くしているレンレンに「見られてるかもね」なんて言って再び唇を塞ぐ。彼はすぐにその意味を理解したようで、塞いだ唇の隙間から焦ったような声が漏れた。


「ちょ…れいちゃ…っ!」
「ん…」


抗議するような声に続き、弱々しい力で肩を押し返されたので、最後に息苦しくなるような長いキスをひとつして、ようやく唇を離した。


「はあっ…はあ、はあ…もう…」
「あっはは、どうだった?初めての観覧車は」
「ん…」


未だ息の整わないレンレンにそう問い掛ければ、彼はふう、とため息をついて、考えたような素振りをしてから一言。


「…一周だけじゃ、足りないね」
「…………え?」
「だって、もう着いちゃうよ」


目を見開いて聞き返せば、レンレンは気のせいか熱のこもった目をこちらに向けてくる。そんな殺し文句に思わずこちらまで赤くなってしまった。


「…あの、さ。近くにあったよね、ホテル」
「うん」
「明日の予定は?」
「仕事は午後からだけだよ」


じゃあ、問題ないね。そう言うとレンレンも静かにうなずいた。空を見るともう星が瞬き始めている。今日は散々格好悪いところを見せてしまったけれど、そう、大人の時間はこれからだ。今度こそ惚れ直させてみせるぞ、とこっそり意気込んで、僕たちは遊園地をあとにした。









─────
9000hit時にリクエストいただきました嶺レンです。満月さまへ捧げます。遅くなってしまい申し訳ありません!

なんだか全体的にコメディチックな話になっちゃいました。ちなみにこの話の肝は蘭丸に騙されちゃうレンレンです。先輩×後輩のCPだと他の先輩組が全力でからかってくると思います。

それではリクエストありがとうございました!こんなものでよければ、お持ち帰りください。





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