うたプリ | ナノ



レコーディングルームを後にして、あとは誰がいるかなあなんて考えていると、ふと彼のことが過った。


──そうだ、トキヤ!


肝心の人物とまだキスをしていなかった。そう思い立つとそのことしか考えられず、俺は急いで寮の部屋に帰った。








……のに、


「ただいま!トキヤー!…って、あれ?」


部屋にトキヤは居なかった。トイレにも風呂場にもいない。靴もない。ということは出かけているんだろう。もしかしてまたバイトに行ったのかな?


「なんだぁ…」


がっかりしてベッドに腰かけた。トキヤとのキス。そんなの全然想像できないけれど、トキヤはイケメンだしきっとしたことはあるんだろうなぁ…。


「……あれ?」


そう考えていると、何故だか胸のあたりがモヤモヤし始めた。どうしてだろう。なんだかすごく嫌な気持ち。


「トキヤ…」


早く帰ってこないかな。きっとトキヤの顔をみたらこんな気分もどこかへ行ってしまうから。だから早く帰ってきて、トキヤ…


「ん…」





☆☆☆



「……や、…おとや……音也!」
「んぇ!?んっ…あ…トキヤ!?」
「はあ…まったく…あなたという人は…」


どうやら俺はいつの間にか眠っていたようだ。そして目の前にはトキヤが居た。


「トキヤ!おかえり!」
「ただいま…じゃ、ないですよ。今まで捜し回ってたって言うのに、あなたは…」
「え…?俺を…?」


トキヤはそう言うとはあぁと深いため息を吐いて、俺のいるベッドの隣に座った。心なしか息は乱れている。こんなに急いで…?


「トキヤ…なんで…」
「…したんですか」
「えっ?」
「キス、したんですか?皆と」


その質問に一瞬どきりとしてしまう。なんだか後ろめたい。どうしてだろう。こんなの、まるで…


「あの……う、うん」
「誰と?」
「翔と那月と、マサとレン…」
「レンまで…はああ…最悪ですよ…」


俺が答えるとトキヤが再び重たいため息を吐く。そして明らかに不機嫌そうな顔つきでこちらを向いた。そして俺の手を掴む。


「あ、あの…トキヤ…」
「黙りなさい。…今の私は、非常に機嫌が悪いんです」


するとトキヤはそのまま俺をベッドに押し倒して、指を絡めて手を握った。そして頬に手をあてられ、トキヤの顔が近づいてくる。


「とっ、トキヤ……んっ…むぐ、」
「ん……音也…、」


そして、キスをされた。今日何度もしたキス。だけどそれはどのキスとも違っていた。

トキヤの唇が、まるで今までのキスを上書きするように俺の唇に重ねれられる。何度も何度も降ってきて、そしてその度に、俺は言いようもない高揚した気持ちになった。


(…?)


体中を巡る不思議な快感と、苦しいくらいに高鳴る心臓。皆としたときもドキドキしたのに、こんな感覚知らない。どうして?どうしてトキヤとキスするのは、こんなに…


(……あ、…そっか俺…)


嬉しいんだ。そう気が付いた。トキヤにキスされるのが嬉しい。トキヤとキスをすることがこんなにも──涙が出るくらい、幸せだ。


そうか俺、好きなんだ。トキヤのこと。


「トキヤ…っ…!」
「! ちょっ…うわっ!」


そして唇が離れていった瞬間、俺はたまらずトキヤの首に手を回して抱きついた。するとトキヤはバランスを崩して一緒にベッドへ倒れ込む。


「なんなんですか…」
「トキヤ…トキヤ!あのね、俺…」
「…?」
「あの……俺っ、──っ」


勢いで告白しようとしたけど、どうしても「好き」が言えない。皆に「キスして」って言うのはあんなに簡単だったのに…。

でも伝えたい。こんなにもトキヤを好きな気持ちが溢れてくる。


「好きっ…!トキヤのことが好き!」
「! お、とや…?」
「あの、俺、ホント好きで…トキヤとのキスが、いちばん嬉しくて、幸せでっ…!」
「っ…!」


必死になってそう言うと、トキヤは俺のことをぎゅって強く抱き締めた。トキヤの胸の鼓動が聞こえる。おんなじくらい、早かった。


「私もですよ…あなたのことが好きです」
「! トキヤ…!」
「だから、あなたが他の人とキスしたなんて…耐えられない…」
「!」


そっか。トキヤが言ってたのはそういうことだったんだ。胸がずきんと傷んだ。そうだ俺だって…トキヤが誰かとキスしたことがあるんじゃないかって、考えただけで嫌になったじゃないか。


「ごめん……トキヤ……」
「はあ…もういいですよ、ほら」
「んっ、…っ…トキヤ、でも…」
「なんですか」
「俺のファーストキス…翔ってことになっちゃう…」


せっかくトキヤと両思いになれたのにと、自分の軽率な行動を反省した。しかしそう言うとトキヤは「ああ、そのことですか」と言って


「あなたのファーストキスなら、私がとっくに奪っているので心配なく」
「え…?えええ!?そうなの!?」
「ていうかファーストキスだったんですね、私もですよ」
「あ、そうなんだぁ…じゃなくて!キスなんていつの間に…」
「あなたが寝ている間に決まってるでしょう」
「え、えええ…」


という驚きの告白をした。


「何か不満でも?」
「ううん…びっくりして…。トキヤっていつから……その…好きだったの?」
「そんなの」


一目見たときからです。恥ずかしげもなくトキヤはそう言って、俺とおでこをこつんと合わせた。


「そっ、そうなんだ…」
「なのにあなたと言ったら…はあ」
「ご、ごめんって!もうトキヤ以外とはキスしないよ!」
「本当ですか?」
「もちろんだよ、だって」


トキヤとキスするときが、いちばん好きだから!

そう言うとトキヤは優しく微笑んで、また俺に幸せなキスをくれた。











────
とにかく音也くんとちゅうをさせたい一心で書いてたら、結構長くなってました。ちゃんとトキ音で落ちてよかったです。





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