いつからだろう。彼をこのような目で見るようになったのは。
いつも元気で明るくて、そしてとても愛らしい。それは第一印象とさほど変わらないが、今は最初とは明らかに違う感情が渦巻いている。
忙しなく鼓動する心臓、熱くなる頬。
そう、好きなのだ。
来栖翔が。
「…っ」
どうしたものだろうか。この場合、どうするのが正解なのか。
「どうしました?聖川さん」
ああ、早くしないと怪しまれてしまう。しかし、いや、どうしたら──
只今俺は、非常に困っている。
事の経緯はこうだ。
昼休み。俺と一十木と四ノ宮は食堂へ行くことになった。俺は二人よりも早く注文が終わったので席を取りに来たのだが、どうも混んでいるせいでなかなか空席が見つからなかった。と、そこで、とある集団を見つけたのだ。
それが一ノ瀬、神宮寺、そして来栖だ。その日は随分と混雑していたものだから、相席させてもらうことにした。
3人は六人掛けの席に3人で座っていた。
神 来 □
┌────┐ 聖...
└────┘
一 □ □
図解すると上図のように。
そう、問題はこれだ。俺は一体…
(どこに座ればいいんだ…?)
俺はもちろん来栖の隣に座りたい。しかしそれでは、3:1となってバランスが悪くなる。不自然ではないだろうか…。ここはもう来栖の正面で我慢するのが妥当か。いやしかしそれでは、後からくる一十木と四ノ宮…特に四ノ宮に来栖の隣を奪われてしまうことになる。くっ!一体どうしたら…
「真斗くん、席取れましたかぁ?」
「し、四ノ宮、一十木」
「あ!トキヤー!」
どうやら俺が考え込んでいる間に一十木と四ノ宮も注文を終えたらしい。一十木が一ノ瀬を見つけて、そちらへ駆けていく。
(は!こ、これで)
神 来 □
┌────┐ 聖
└────┘ 四...
一 音 □
(来栖の正面は埋まった…!いやしかしこの流れならば自然に来栖の隣に座れるのでは!?)
「あ 翔ちゃん!わあい皆でお昼ですね〜!」
………………
神 来 四
┌────┐ 聖≡
└────┘
一 音 □
一番恐れていた事態になってしまった…。くっ しかしこれもぐずぐずとしていた己の責任…。諦めて残りの席に座るしかあるまい。
そんなわけで俺が一十木の隣に腰掛けようとした、その時。
「ちょっと待った」
ランチプレートを置いて座ろうとした時、誰かそれを制した。神宮寺だ。一体何だと言う前に神宮寺が席を立ち口を開く。
「ねえイッキ、ちょっと話があるんだけどいいかな?」
そう言いながら神宮寺が一十木の隣の席──俺が今座ろうとしていた席まで来る。これは席を譲れということだろう。つまり必然的に、俺が座わることになるのは──
□ 来 四
┌────┐ 聖
└────┘
一 音 神
(…!じ、神宮寺…!)
こいつに感謝することなどめったにないが、この時ばかりは感謝せざるを得なかった。奴を見ると、こちらを見て意味深にニヤついている。こいつ…気付いていたのか…。
「で、ではこちらの席に座らせてもらうぞ」
とにかくこれで念願の来栖の隣の席が取れた。ほっとしつつも緊張しながら座った俺に、来栖はおう、早く食えよと微笑みかけてくれる。その笑顔の何と愛らしいことか。不覚にも顔が赤らんでしまった気がするが、来栖はすぐに自分の昼食に手をつけ始めたので見られてはいない。良かった。
とにもかくにも隣に座れたのだ。これを機に距離を縮めるしかあるまい。何しろ寮の部屋もクラスも違うからな。機会は限られている。
そう決心し来栖の方をちらと見ると、目の前には信じられない光景が広がっていた。
(な、なんと…!頬にご飯つぶだと…!?)
そう。来栖の頬に真っ白なご飯つぶが一つ、くっついていたのだ。かわいい。ずっと眺めていたい。いやしかしこれは好機なのでは?そう、「ほっぺにご飯つぶついてるよ」イベントである。
(取ってやった方がいいのだろう…しっ、しかしそんな…来栖の…頬に…)
羞恥心からつい躊躇ってしまう。いやしかし、正面の一十木や他の奴らがいつ気付くかも分からない。そうだ。今度こそチャンスをものにせねばなるまい。男だろう聖川真斗!
「く、来栖」
「ん?」
なるべく自然体を装って声をかける。気をつけないと声が裏返りそうだ。大丈夫。俺ならやれる。
名を呼ばれこちらを向いた来栖に少し近づき、左手で頬に触れる。一瞬来栖の顔が強ばった気がするが、気にせず右手で口元についているご飯つぶをつまみ取った。
「ひじり、かわ…?」
「……ご飯つぶが付いていたぞ」
「へっ!?…っあ…、そ、そうか!あ、あははは」
なるべく自然さを心がけて笑顔を作りながら言ったが、心臓はこれでもかというほどに早く鼓動している。
それにしても来栖の反応が少し変だが…も、もしや何か怪しまれてしまったのだろうか。
(は!そ、それよりも…取ったこのご飯つぶはどうすべきなんだ!?食べてしまってもよいのだろうか…)
俺が新たな悩みに困っていると、不意にこちらを見る来栖の視線を感じる。つられてそちらに視線をやると同時に、右手首を掴まれた。ご飯つぶを取った方の手だ。
すると、
「ん…っ!あ、ありがとな」
「……!!」
人差し指をくわえられた。すぐに口を離すと、座高の差から自然な上目遣いで見つめてそう言う来栖。
い、今、何を───
「……っ!!」
「え!?あっおい聖川!?ごめん!嫌だったか!?」
「ち、違う…!そうではないのだが…ぐふっ…!」
「……やれやれ、見てられないねぇ」
「まったく、余所でやって欲しいものです」
「二人とも早く付き合っちゃえばいいのになー」
「うふふ、翔ちゃんも真斗くんもかわいいです〜」
───
同室でも同クラでもない上特に接点が少ない組が好きです。具体的にいうとトキ那、マサ翔、レン音が好きです。
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