うたプリ | ナノ






このいちごはまだ、青い。
















「ふむ、うまいな」
「そう?それは良かった」


例えばさ、実のなった苺がここにあったとしよう。だけどそれはまだ完全には熟していない、青みが残る苺だ。君ならそれをどうする?


「ストロベリーティーだって。あ、おかわりいる?」
「いや、いい。…それより」
「あっ」


赤くなるまで待つ?だけどそれじゃ、どこからか飛んできた小鳥に食べられてしまうかもしれないんだ。

なら、もうそのまま食べてしまう?でもそれじゃ酸っぱいよね。


「! まったく…何をやっておるのだ貴様は」
「ごめん。拭くもの持ってくるよ」


だったら、農薬でも振りまいてしまおうか。けど、それじゃあ苺の味は落ちてしまう。

それならいっそ、赤くなるまでずっと自分が見張ってるかい?でもね、苺一つにそんな時間をかけられないでしょ。



結局のところ、その苺を美味しく食べられる確実な方法なんて無いんだ。

だから俺は、その苺の実がなってしまったとき、切り落としてしまうのが正解だと思うんだ。余計な期待をしてしまわないように。


「ごめんね。やけどしてない?」
「大丈夫だ。……それよりだな」
「あっ ごめん着信だ。失礼するよ」
「………ああ」


だってね、切ないだろう。苦しいだろう、悲しいだろう、辛いだろう。そんな恋をしてしまうくらいなら、始めなければいいのさ。そう、それだけ。















「んっ………はあ、」


二人きりの空間にいるのさえ苦しい。こんなにも胸がどきどきする。顔には出てなかったよね。危なかったかも。

画面が落ちている携帯電話を片手に、その場に座り込む。


「……バロンは、卑怯だね。」


あんな端正な顔で、あんな魅惑的な声で、言葉にはしなくても俺を欲しがってくれている。だから言葉にされてしまったらもうお終いなんだ。俺も求め返してしまうだろう。

だけどそれは駄目なんだ。この恋が幸せにいくなんて、到底思えないから。お互いに爆弾並みのリスクを抱えながら恋なんてしていたら、いつかきっと火が点いてしまう。


だからバロンの気持ちには気付かないフリをしよう。そしてこの気持ちは隠してしまおう。

カミュのことが、好き。
一目見たあの日から、初めて言葉を交わしたあの日から、一緒に歌ったあの日から、ずっと。


「こんな姿…見せられないよ、誰にも」


恋愛経験はある方だと思っていたのに、こんな感覚は初めてで。だけど分かるんだ。これは恋なのだと。それも嫌になるくらいの純愛だ。

本気でする恋はこれが初めてだなんて、認めたくない。こんな不幸せな恋なんて。
















「何っ…を、泣いておるのだ貴様は…っ!」

「!? え、あ…バロン…?」


見つかってしまった。よりにもよってこんな所を。本気で隠れていたわけではないけれど、バロンが俺を探しにくるとは思わなかった。足音なんてしなかったのにと一瞬思ったが、足音を消して歩くのが癖になってしまってるとか、前に言ってたっけ。


「どうして…」
「聞きたいのはこっちだ。……なぜ泣いている。それに、なんだあの態度は」
「……」


涙が出ているのは──だって、悲しいから。
せっかくの初恋が実りそうだというのに、バロンの気持ちに応えてはいけないから、だから辛いんだ。


「…何度も遮っただろう、俺の話を。その上こうして逃げ出して」
「そっ…れは…」
「まるで俺が何を言おうとしているのか、分かっているように」
「そんなの…っ!」
「分かっているから話をさせなかったのだろう?」
「───!」


座り込んだままの俺を、バロンが抱き締める。ダメ。ダメなのに…。


「好きだ」
「っ──!や、」
「ちゃんと聞け」
「やっ、だぁ…」
「神宮寺…」


ダメ。駄目、言わないで。実らないほうがいいに決まってるんだ、この果実は。


思わず目をつぶって耳を塞いだ俺の手を、バロンが優しく掴んで解こうとする。そのままうつむいた顔を覗きこまれて、まぶたにひとつ、キスをされた。


「あっ…」
「好きだ、レン」
「っ…!」


ずるい。そんなの。俺の大好きなその目で見つめながら、俺の大好きなその声で、本当はずっと欲しかったその言葉を言うなんて。


もう抑えられないよ。




「──っ、おれも、好き…っ!バロンが……カミュが、好き…!」


ぼろぼろと涙が溢れて、声も上ずってて、言葉も途切れ途切れ。カッコ悪い。だけどあんなに嫌がってたことなのに、胸の中を満たすのは甘い幸福感だった。

涙で濡れた視界に微かに映ったのは、優しく微笑む愛しい人。


「うえぇ……あ、や、も…とまんない…っ」
「まったくお前は…最初から素直になっておれ」
「だって……、あっ、んっ…ふう…」
「ん…」


甘い甘いキスをされる。今度は唇に。慰めるように何度も何度もついばまれ、どきどきして何も考えられなくなる。


「あ…」
「…ふむ。泣き止んだか」
「う、うん…」


だったら、と床に座り込んで俺を抱き締めている体勢のまま向き直る。


「それで、どうして避けていたのだ」
「そ……れは、」


思わず視線を逸らすが、そんなことはさせまいと頬に手をやられる。そのまま何も言わずにじっと見つめられ、仕方なしに口を開いた。


「だって…」
「なんだ」
「……きっと、幸せになんてなれないから」
「……」
「バロンが俺と付き合ったって、それは素敵なことだけど、幸せにはなれない。だってそうでしょ?」
「…………」
「男同士で、二人ともアイドルで、普通の恋人同士ができること、何もできなくて…」


言ってて悲しくなる。また涙がこぼれてしまいそう。さっき思わずしてしまった告白を取り消したくなる。


「……俺はバロンと、幸せになる自信が、ないんだ」

「もちろんこうして思いが通じ合って、抱き締められてる今は幸せだけれど」

「きっとそれ以上に辛いことばかりになってしまう」


それ以上は口を開けなくなって、バロンの腕の中でただ反応を待った。握ったてのひらも声も、心なしか震えていて、いつもの自分からは考えられないほど弱気に、臆病になっているのが分かる。

するとしばらくの沈黙の後、ため息をうつむいた頭に感じた。恐る恐る顔を上げるとそこには、呆れたような表情のバロン。


「何を言っているのだ貴様は」
「なっ」
「だったら貴様は、俺が居なくても幸せになれるとでも?」
「…っ!」


そう言ってバロンは、自信満々の笑みを浮かべる──その表情に、情けなくもクラリときてしまった。そして更にこう続ける。


「だからな、貴様がいらぬ心配などせずとも」

「嫌というほど幸せにしてやる。この俺がな」


あまりにも当然のことのようにそんなことを言うから、一瞬こっちが呆気にとられてしまった。どうしてこうもはっきり言い切れるのだろう。

でも、根拠なんて無くてもバロンの言葉は何故だかとても頼もしくて、信じられるような気がした。心の奥の方から何かがじわりと込み上がってきて、涙がまた溢れ出てくる。嬉しい。とても、幸せだ。


『幸せにしてやる』──本当はずっと、この言葉を望んでいたのかもしれない。


「…っ…ありがとう…──愛してるよ、カミュ」


そうか。本当は俺だって、赤い実がなるのを期待していたんだ。















───
レン様が乙女っちゃいました。レンちゃんって感じですねかわいい。
イチゴ組の俺得が半端ないです。このエロ長髪イケボ組。年齢も身長もいっこ差なんですよねかわいいかわいい。そしてチーム・Theセレブ(御曹司とカミュ)も好きです。かわいい。





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