その他 | ナノ



学校の裏庭は比較的静かだ。遠くに聞こえる騒音はBGMと言うにも小さく、時たま車道の方から来るエンジン音と、池で鯉が跳ねる音ぐらいしか音がない。

いつものように昼休み前に買っておいた菓子パンの袋を開けて、大分古こけた木製のベンチに腰掛ける。果実も使って無いであろう苺と、添加物まみれの砂糖の味は嫌いじゃなかった。


「よう、ユースタス屋。」

「…ああ?」


いつもならば。此処で菓子パン5、6袋とパックジュースを平らげて、袋に残ったパンくずを池の鯉にやった後、気分によって欲求のままに惰眠を貪るか、真面目に受ける気は更々無い授業に顔を出すかというところだ。

一年の中では名の通った不良である自分に、望んで自ら声を掛けて来るものは限られてる。形だけでも説教する立場にある教師、普段つるんでいる仲間、喧嘩を吹っかけてくる輩に、せいぜい釘を刺しにくる先輩。それぐらいだ。

トラファルガー・ロー。名前を聞いたことはあった。喧嘩はそう頻繁にしないが強いらしく、頭が切れて要領が良いとか、そんな感じに言われていたような気がする。

しかし何故今、このトラファルガー・ローその人が自分に声をかけてきたのか。誰も寄り付かないような雑草まみれのこの場所に、通りかかって偶然、とは考えにくいし、喧嘩をしにきた雰囲気も感じられない。


「何の用だよ」
「…砂糖、ついてるぜ」


此処まで来ていきなり何だとか、用事があるんじゃないのかとか、ついさっきまで食事中だったんだから当たり前だとか、ていうか砂糖ついてるのって見えるか?とか、色々な疑問が一瞬の内に頭を過ぎるが、次の瞬間にそんなことはどうでも良くなった。


「………何の、つもりだてめぇ」
「これが1番手っ取り早いと思ってね」


そう睨むなよ。


そう言って、目の前の男は何が楽しいのかにやにやと笑う。男にいきなりキスをされて、しかめっ面になるなと言う方が無理だ。女のように初めてがどうだなどと言うつもりは無いが、こんな男に奪われたのは少々、いやかなり屈辱的である。


「何ならもう一回…」
「てめぇっ!ふざけんな!」
「酷ぇなあ。俺は全くもって本気だぜ?」


だからさっきから会話が進展してないし、この男の意図が全く分からない。一体何なんだ、からかって遊びたいなら余所をあたれ。男が好きならそういう奴を探せ。


「じゃあ、単刀直入に言うけど。」
「最初っからそうしろ」
「え…あー…、ゴホン」


すると奴は急に真剣な面持ちになって、咳ばらいを一つか二つした後、考えるように手を顎に添えて、目をつむる。顔が少し赤いのは気のせいだろうか。

しばらく言いづらそうに目を逸らしたり、口を開いては閉じたりを鯉のようにパクパクやったかと思うと、意を決したようにこちらに向き直って、自分がベンチに座ったままであるため見下ろす形で視線を合わせてくる。

何だかこちらにも力が入った。奴の顔は真上から降り注ぐ太陽光により影が落ちているが、やっぱり頬が少し赤い気がする。


「…ユースタス屋、」


名前を呼ばれ、何だ、と返す前に相手が自分の座っているベンチに膝をついてきた。そのまま首に腕を回されて、思い切り抱き着かれる。そして、驚いて離せと相手に掴みかかる前に、あちらから直ぐに腕を離されて、今度は両のてのひらで頬を包まれた。一瞬意外と温かいんだな何てどうでもことを思う。

そして、さっきから一体何なんだよと、相手の意味不明な行動にキレる寸前だった頭から、次の瞬間怒りが何処かに消えていった。

頬を掴まれながら見た相手の顔は、さっきと打って変わって満面の笑みを浮かべていたから。頬が赤いのはやっぱり気のせいじゃなかったようだ。不健康そうな目の下の濃い隈に似合わない、子供みたいに無邪気であどけない笑顔。


「お前が好きだ」



「………っはあぁ!?」
「ほーら、やっぱり信じないだろ」


初対面で突然己の唇を奪われたと思えば、口ごもって抱き着いてきて笑って、揚句にいわゆる愛の告白までされてしまった。何なんだこの男は。いかれてるのか。──そんなことに頭を回さないと、自分の早まっている心臓の言い訳が見つからなくて非常に困る。


「…っ…信じる訳ねぇだろ…っ」
「お前のどこに惚れてるかなら、いくらでも言えるけど」
「い…や、言わなくていい。いいからどいてくれ」


心なしか目を輝かせているこの男を制止して、信じるか?と問いながらベンチから身を引くこいつに返事はせず、頭を抱えながら俯いた。
どうしてこうなった。相も変わらずにこにこと笑みを浮かべながら、ポケットに手を突っ込んで立っている男を見ながら思った。

大体──


「俺はずっとお前を見てたんだよ。」


一瞬、心を読まれたかのように感じ、驚いて目を見開いた。

──大体、自分はこいつに好かれるようなことをした覚えはない。今まで何の接点も無かったはずだ。名前しか知らないこの男に、好かれる筋合いは何も無いのだ。


「ずっと見てた。」
「……」
「好きだ。ユースタス屋」


彼がまた頬を染めながら笑顔でそんなことを言うから、何だかむずかゆいようなこそばゆいような気持ちになってしまう。さっき頬を包まれたてのひらが温かかったのは、もしかしたら彼なりに緊張していたのかもしれない。そんなことをまた頭の隅っこのどこかで思った。

自分の何を見て好きになったというのだろう。本来ならば初対面の相手にキスするような失礼なこいつを一蹴して、もちろん断るべきなのに、何故か心臓は高鳴って頬は熱いし、今の表情はとても彼に見せられない。おかしな言動ばかりをする彼に、もう興味を奪われてしまっている。…だけど、好きだなんて言われても困るのだ。彼に顔を見られないように、ベンチから立ち上がった。


「…だから、何だよ」
「だからって、なあ。伝えたかったというか。」
「…っ…お前は俺を好きだから、だからどうしろってんだよ!」
「?……ユースタス屋…?」


──様子がおかしいキッドの言葉に少し戸惑ったローだが、彼の耳まで赤くなっている顔が垣間見えて、やっと意味が分かった。なるほど。確かに困ってしまう──好きだとだけ言われても、返事の仕方に。

そんな不器用な彼の姿を見てまた笑みがこぼれてしまう。この男を好きになったと自覚したときは割とショックを受けたものだが、やっぱり勘違いなどではなく彼が好きだと今改めて思った。


「ユースタス屋、好きだ、俺と付き合ってくれ!」
「……ふん」


昼休み終了のチャイムが鳴って、さっさと校舎の方に歩いていくキッドの後をローが追っていく。掻き消されそうなった小さな声の返事は、確かに彼の耳に届いていた。




そんな恋の始まり




___
ロキドロが好きです(告白)。最近ロキドにはまり、勢い余って書いちゃいました。いつも以上に乱文なのは気にしないで下さい…仕様です(おい)。最後の方とか視点よくわからんくなってますけどほんとうにきにしないでください仕様で(ry





←prev* #next→


戻る
トップ
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -