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「ルッチ、ねぇルッチ」
「んー、可愛い。可愛いルッチ」
「大好きだよ。僕の、可愛い恋人」


そう言って肩に腕を乗せ、頭のてっぺんに顔を埋めてくるのは、黒髪と和服が良く似合う自分の恋人。壁掛け時計は午後3時過ぎを指している。穏やかな春の昼下がりの風が全開の窓からカーテンをたなびかせて入ってきた。

自分の頭を抱きしめて髪を撫でる恋人の手は、とても心地良い。そのまま降りてきた手に首筋と喉元を撫でられて、思わず身震いしてしまう。声が出ないように抑えるのが精一杯だ。

彼は抱きしめていた腕を離して、こちらの顔をじっと見つめてくる。視線に堪えられなくて表情を隠すように俯くと、温かいてのひらに頬を包まれてしまった。抵抗なんて出来やしない。


「こっち、向いて」
「………」
「……キスしてもいい?」


自分の右肩に相手の左手が乗る。右手は頬に添えたまま。そのままこつんと額を合わせられ、また「こっち向いて」と言わんばかりに、細めた目で催促される。男にしては長めの髪が顔にかかって、甘いシャンプーの香りがした。

かなりの至近距離のまま数秒が経ち、意を決してさ迷っていた視線を相手の方へ向けると、長い睫毛の瞳と目が合った。その瞬間、目の前の顔が至極嬉しそうに綻ぶから、もう胸の奥が普段よりずっと高鳴っていることを、認めないわけにもいかなかった。

唇が重なって、離れて、また重なる。何度も何度も口づけて、その合間にまた彼が甘ったるい愛の言葉を口にする。心臓は早いし、吐息は乱れて、流れる血はいつもよりずっとあつい。脳みそまで蕩けてしまったように、ぼうっとして何も考えられない。ただ、もっと、もっとと強欲に強請る自分と、よく分からないくらいに彼が好きだと思っている自分がいるだけだ。


「ルッチ…可愛い…」
「…っ…」
「…好きだよ…大好き…」
「ん…っ…」


可愛い可愛い、僕のルッチ。


…本気で言ってるようにしか聞こえないから困る。可愛いだなんて言われたのは今までの人生のうち、子供の頃も含めて記憶にはほとんど無い。正義を掲げて殺人もするような、こんな一般人とは遠く掛け離れた大の男に可愛いなんて言いたがる物好きは、きっと世界中を探しても彼一人だろう。


肩と頬にあった彼の手はいつの間にか離れていて、自分の手を探していた。不意に指先と指先とが触れて、思わずびくりと肩が上がる。だけど直ぐに捕まえられて、てのひらとてのひらを合わせて、指を絡ませてくる。幾つもの人体を貫いてきたこの指も、豹になれば鋭く尖るこの爪も、今は全く機能しないみたいに、彼の、いつも優しく自分を撫でる指にただ絡め取られている。


「ねぇ、ルッチ」
「…ん…」
「大好きだよ」
「……知ってる」


嬉しそうに笑いながらそう言って、また重なった唇もてのひらも既に同じ温かさで。彼と体温を共有できるのが今の自分にとって酷く幸せだと、そんな自分の考えとは思えないようなことを働かない頭の片隅で思った。



甘い甘い君の温度




―――
うわあああ衝動的に書いてしまいました!初☆海☆賊です。ルッチ受けにどうしようもなくたぎってしまい、スパルチ妄想とかしてたんですけど、こう……穏やかでほんわりしてる好青年に攻めてほしくてBLDになりました。男主攻め大好きです。

悔いはありませぬ!\(^o^)/





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