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フォークを入れる度、サクサクと音を立ててパイ生地は崩れていく。苺はとっくに落下したし、ホイップクリームは無秩序に皿の上を散乱している。


「あのねぇ…坊ちゃん」


もうちょっと綺麗に食べたらどう?そう言うフランスの声なんて聞こえない。だって仕方ないだろう、不器用な自分にこんな難易度の高い菓子を出す方が悪いのだ。

今日はフランスの家も雨だった。それがまた憂鬱な気分に拍車を掛ける。恐らく自分はぶすっと膨れっ面をしているのだろう、フランスが呆れたようにため息をついた。
















スペインとケンカをした。何、つまらないことでだ。初めは軽い皮肉の応酬だったそれは段々と口論にまで発展し、終いには互いの罵り合いになっていた。

恋人関係になっても一向に良くなる気配のない相性は自覚しているが、いつもはここまで言い合うことも無い。この頃会えなくて溜まっていたストレスと、ヨーロッパ全体に広がる暗雲のせいだろうか。

スペインの家まで行ったのにそのままケンカ別れしてしまい、だけど自分の家に帰る気分にもならかったので、わざわざピレネーを越えて此処までやってきたのだ。本来なら来たくもないが。


「………」
「…ぶっさいくな面」


うるさい。こっちだって、したくてこんな顔してるんじゃねぇよ。

むしゃくしゃしてまた乱暴にフォークを突き刺すと、パイ生地は簡単に割れて、ただカツンと皿にフォークがぶつかる音だけがした。仕方なく欠けらを拾って口に入れる。甘いデザートで最悪な気分が少しでもマシになれば良いと思った。


──どうしていつもいつもこうなるんだと、いつものように考える。必死の思いでやっと伝えた気持ちは、まだ消えないどころか、日増しに強くなっていくのに。

素直になれないのは生れつきの性格故なのかもしれないが、変わる努力をした方が良いのかとも思い始めていた。このままの状態で、いつか終わってしまうなら。


「……はぁ…」


ミルフィーユを食べる時、そのままフォークを入れると崩れてしまう。だから横に倒してしまうのが正しい食べ方らしい。聞いたことがあった。だけど、手元にあるそれはもうとっくに崩壊してしまっている。

苺が乗っていてアンバランスで、崩れやすいパイ生地が重なってできたその甘いお菓子は、自分には綺麗に食べるのが難しいのだ。


スペインとケンカをする度に思う。このまま仲直り出来なかったらどうしよう。また心にも無いことを言って、今度こそ愛想を尽かされたらどうしよう。

自分が百年先だってあいつを愛してる自信はあるけれど、自分が今もあいつに愛されている自信は全く無い。


「…スペインも、良くうちに来るんだよね」
「!」


そんなネガティブな気分に追い討ちをかけるような言葉がフランスの口から漏れる。何だ、会う度にケンカしか出来ない自分に対する嫌味か?そうは思ったが、こいつとまでケンカする気力は残っていなかったし、会う度にケンカしかしていないのは事実なのだ。それにスペインはこいつと幼なじみというやつで、自分より仲が良くても何ら不思議では無い。

フォークを持ったままじっとそんな考えを巡らせていると、フランスはまたため息をついて、そして言った。「…スペインも、毎回今の坊っちゃんみたいな様子してるよ」……え?


「どういう、意味だよ」
「やっぱり気付いてないんだ?」


呆れたように目を閉じて肩をすくめるフランスに問いただそうとしたところで、不意にこの家の呼び鈴が鳴った。「噂をすれば」そう言ってフランスがぱたぱたと足音を立てて玄関に向かっていく。

…あいつはさっき、スペインが今の俺と同じ様子だと言っていた。それはおかしいだろう。だって遊びに来てるんなら、今の自分のような状態であるのは変だ。今の俺はスペインと喧嘩したことを絶賛後悔中で、スペインのことで悩んでいて…


……

………え?

これってつまり、…そういうことなのか?






(はあ!?なんでお前が此処おんねん!)
(べ、別に俺が何処にいようが勝手だろうが!)
(はぁ…本当お前らはケンカが好きだね…)





―――
初の学パロじゃない英西です!
やたら三点リーダー(これ→…)が多くなったなぁ。そしてラストが分かりにくいですが、つまりスペインもケンカする度にイギリスと同じように後悔してるんだよ、相思相愛だよということです。
ちなみにミルフィーユの正しい食べ方なんてのは知りません。聞いたことあるような無いようなデタラメです!(`・ω´・)キリッ





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