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だけど、それでも君が好き。」のアーサー視点です。





あいつが俺の事を好きなのは勘付いていた。というか確信していた。知っていたと言ってもいい。
だから関係は敢えて簡素なものに留めておいて、だけど常に視界に入るような位置に居るようにして。わざと他の奴に優しくしたりだとか言うのもやった。あいつのことは、それに面白いくらい反応を示す、焦らすのが楽しい相手程度に思っていた。


──違ったのはいつからだろう。自覚が遅かった分、もしかしたら俺はあいつよりも馬鹿なのかもしれない。

昔ちょっと虐めた時に見せた涙ぐんだ顔も、怒った顔も、へこんだ時の顔も、馬鹿みたいに明るい笑顔も、俺を見詰める時の熱烈な視線も。今思えば何とまあ可愛いらしいことか。
こんなに分かりやすい奴に惚れられたのは初めてだろう。おまけに本人は自分の行動がいかに分かりやすいか気付いていないし、面と向かい合えば無理をしていつも通り(の、つんけんした態度)を装っているのが丸分かりだ。正直こちらの調子も狂うのである。


いつの間にか、あいつがいつも弁当持参なことも、だけど昼休みには必ず、自販機にトマトジュースを買いに行くことも把握していた。それからは、自分が煎れた方が絶対に美味しい紅茶を買いに、わざわざ自販機に通った。

…ああ、自分の方がずっと愚かで弱虫なんじゃないだろうか。相手が自分を好いていることを知りながらも告白の一つさえできないなんて。だって、今更なんと言えばいいか、なんて分からない。女々しいなんてことは分かっているけれど。



そんなある日の昼休み。いつものように自動販売機まで行くと、ふと隣の機器のトマトジュースが売り切れていることに気が付いた。自分が買う訳ではないので別に構わないのだが、いつもそれを楽しそうに購入しているあいつはどんな顔をするだろう。

そんなことを考えていると、間違えて紅茶の隣のいちごミルクのボタンを押してしまっていたようだ。ガコンと出てきたピンク色のパッケージを、ひとまず拾い上げる。買い直そうとも思ったが、別に嫌いではないからこれでも良いか、と結論を出した…その時。


「うわっ、売り切れとるやん…」


いつの間にか隣に来ていたアントーニョが落胆の溜め息を吐いている。何だか全く予想通りの反応で少し笑えた。と、ふと、何にしようかと悩むあいつと、右手のいちごミルクを見比べる。



「…これ、やるよ」
「え?」


冷えたままで結露しているピンク色のパックジュースを、あいつのこめかみに半ば押し付けるようにして渡した。驚いて慌てて受け取ろうとする姿を見て楽しむ反面、甘いもの嫌いじゃなかったよな、大丈夫だよな、と緊張している自分がいて少し情けなくなる。

だけど、驚きと、ほんの僅かだが喜びが見て取れる表情に安堵する。と同時に、その可愛らしさに胸がキュンと絞まった。


「な…なんやねんいちごミルクて。可愛い過ぎやろ」
「間違えたんだよ。要らねぇなら捨てとけ」
「…っ…、しゃ、しゃーないからな、捨てんの勿体ないから貰っといたるわ」


まったく。可愛いげの無い言葉を吐きながら、どうしてそんなに可愛いらし表情をできるのか。言っていることが受け取る建前に過ぎないことも、本当は嬉しくて堪らないことも、誰でも分かるってくらいに顔と態度に出している。それを本当にこいつは自覚していないのだろうか。見ているこっちが恥ずかしくなる。

今度こそペットボトルの紅茶を買い、じゃあなと言って教室に帰ろうとすると、不意に後ろから呼び止められる。何だと思いつつ振り返れば、あいつは呼び止めたくせに何故か口ごもっていた。


「何だ?」

「…あ…い、一応な!不本意やけど、奢ってもらってる立場やからな…礼ぐらい言っとくわ、」


ありがと、そう言って小走りで反対側の廊下を駆けていくあいつ。

…なぁ、おい、嘘だろ。反則じゃないのか。何でお前はいつもそうなんだよ。勝手に人の心を奪っていって、いつまでも心の中に残って。気になって仕方がないのだ。だからいつまで経っても恋愛対象外になってくれない。
伏し目がちな目だとか、赤くなった頬だとか、そういうのを見て女なんかより絶対可愛い、そう思うのは俺の感性が狂っているからなのか。


「…っ…ばぁか…」


どうしてあんな奴に惹かれるのか何て分からないけれど、結露したペットボトルを押し当てた自分の頬は確かに熱くて、恋と言うのは随分と理不尽だなと、頭の端で思った。




──それからは。昼休みに通り掛かった廊下で何処かへ走って行くあいつを見て、どうかしたのかと、あいつを呼び止めていたフランシスに事情を聞くと、思わぬ事を聞いて、気付いたら自分も走り出していた。本当に、あいつは何処まで俺を深入りさせたら気がすむのか。


走りながら思った──今なら、言える。散々に長引かせた焦らしプレイは終わりにしよう。もう焦らすのも、焦らされるのも飽きてしまった。
どうやったら伝わるだろう。あいつの事だから、好きだと言っても気付かなさそうで恐い。だったら口づけでもしたら信じるだろうか?


本日二本目のいちごミルクを片手に走りながら、どんな反応を返してくれるのかと思うと、少し笑えてきた。



ちょっとそこで待っていて。
今伝えに行くから



―――
学パロで爽やかな英西が書きたい!と思って書いた以上二作品です。自分的には満足!
これはちょっと甘くもなりましたね。読み返すといつも小っ恥ずかしいです(笑)





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