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「来年も同じクラスだったら、」
「え」


そう言って受け取られた、幾ページにも架空の物語が綴られた、それ。


「…来年も同じクラスだったら、貸してあげる」


何が、とは聞かなくても分かった。最近の半兵衛のお気に入りの本、それは彼にしては意外なファンタジー系の物語本だった。

登場人物が何度も挫折を繰り返してやっと掴む小さな成功、主人公たちの邪魔を企む謎に包まれた陰。細やかな心情描写に、あっと言わせるような展開。薦められて読んだそれは、若者を中心に今中々の人気を誇っており、活字に耐性の無い慶次でも素直に面白いと思えた程だ。


「ええっ!何だよそれ!」
「……」


続きものであるその、今返したばかりの第二巻は、絶妙なヒキで幕を閉じているのである。一読者として続きが読みたいという欲求は隠せない。

すっかり嵌まってしまったので三巻も貸してもらおうと思っていたのに、何故そのような条件付きなのか。当の本人は察してくれとでも言わんばかりの表情でこちらを見ている。


「大体もうすぐ卒業なのに…」


そこまで言って何か違和感を覚えた。そうだ、自分たちは最上級生なので、進級するのではなく卒業し、それぞれの高校に入学するのだ。


来年同じクラスだったら…?


「………」


…それは、嫌味か何かなのだろうか。

できれば慶次は、半兵衛と同じ高校に行きたかったのだ。しかし半兵衛の第一志望である公立高校は慶次にはレベルが高かった。それで慶次は同じ高校断念し、自分のレベルに見合った公立高校を選んだのである。公立校を二つも三つも受けられるはずも無く、いわゆる滑り止めで受けて、見事合格した私立高校も二人は異なっている。


公立高校の受験は卒業式が終わってからだが、とどのつまり、自分と、今 目の前にいる幼なじみが同じ高校に行くことは無いのである。

なのに、"来年同じクラスだったら"──。



「……そんなに俺に続きを読ませたくないの?」
「…君、馬鹿?」


思ったままのことを口にすれば、軽く呆れられた。まあ彼が自分から薦めてきた本を、今更貸すのを渋るのもおかしな話だが。しかし、だったら一体どういう意味なのか。


「だって、半兵衛とは違う高校になるだろ…?」
「……それ、願書出す前の話。」
「へ?」


願書を出す、前…確かにそうだ。半兵衛の志望校を教えてもらったのは十二月の終わり頃の話である。…つまり、半兵衛は以前言っていた公立高校に願書を出したというわけではなくて…それはつまり、別の高校を受けることにした、と言うことで…


(……え…?)

それって、もしかして、



──誰もいない放課後の廊下で、二人だけがそこに立っていた。外からは部活動に励む一、二年生の声が聞こえてくる。窓からは夕日が差し込み、目の前に居る幼なじみの姿を微かにオレンジ色に染めていた。

しかし彼の頬に少し朱が差して、恥ずかしそうに俯いているのは、夕日のせいでも気のせいでもないのだろう。




あの本の続きを、きっと。
(っ…俺すっげぇやる気出てきた!)
(…落ちたら容赦しないから)





―――
はい、慶半で卒業ネタです。何かパッと思い付いてががががっと(←?)出来上がりました。割には結構気に入ってます(^^

そしてこれ分かりづらいですが意味は伝わったんでしょうか…?半兵衛は結局慶次と同じ公立を受けることにしたんですよ。くっ…説明しないと分かり難いこのもどかしさっ!

あと…何か…私…タイトルのセンス無いですね…。





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