「………………。」
「………………。」
「ねえちょっと、この空間に俺は必要なのかい?」
「「必要だ!」」
オレは諦めて、やれやれと首を振った。
バロンと歌を歌った時、ぽろっとこぼされた一言。
「……お前としょっちゅう喧嘩しているあいつは何者だ?」
一瞬思考が止まった。いや、バロンが指す人物が聖川真斗だということはすぐにわかった。でもなぜ聖川?
「聖川真斗、俺の幼馴染だけど……それがどうかしたのかい?」
「い、いや、なんでもない!」
若干耳が赤いような気がした。というか余程鈍い人間でなければバロンのこの慌てようには気づくだろう。こうなると悪戯心は止まらない。おちょくるしかないだろう? あの高貴な伯爵様を。
「もしかして、好きなの?気になるとか?」
「断じてそれはない!」
「いいよ、そんなこと言わなくて。紹介してあげよっか?」
「余計なお世話だ、必要ない!」
無駄に荒げる声に、ニヤニヤが止まらない。否定するほど墓穴を掘ってるってわかんないのかな?
「へぇ〜、バロンってあんなのが好みなんだ〜」
「だから違うと言っているだろう!大体なんで俺が愚民などに……」
「あいつも聖川財閥の御曹司、しかも長男だよ。バロンの言う、『高貴な生まれ』ってやつじゃないの?」
「なに、それは本当か?」
「あ、食いついた。やっぱり気になるんだね。」
「だから違うと……!」
俺のちょっかいにいちいち顔を真っ赤にして返すバロンが面白い。面白すぎる。俺は半ば強引に聖川とバロンを会わせる約束をした。
「もしもし、聖川?」
バロンと別れてすぐ、俺は聖川に電話をかけた。明日にでも取り付けた約束をバロンに伝えてやろう。どんな顔をするかな?そう思うと笑みがこぼれた。
「神宮寺か、ちょうど俺もお前に用事があったのだ。」
「じゃあ、先にそっちからでいいよ。急いでることじゃないし。」
「うむ、では……。」
「……カミュ先輩とお近づきになりたいのだが……その、どうすればいいだろうか。」
オレは携帯を落とした。
「神宮寺!何だ今の音は!」
「……良かった壊れてないみたい。」
スピーカーから響く聖川の声で我に返った。俺としたことが、びっくりしちゃったじゃないか。
「ごめんごめん、ちょっと手が滑っちゃって。」
「そうか、問題ないのなら良いのだ。……で、どう思う?」
「そうだね……シュガースティック一本飲んでからキスでもすればいいと思うよ。」
「はあ!?」
気が動転しすぎてとんでもないことを口走ってしまった。いくらなんでもそれはない。でもあながち間違ってないと思うのは俺だけか?
「貴様……俺が恥を忍んで相談しているというのに……!」
「いやでも間違ってはいないよバロン甘党だし。」
「……というか神宮寺。その、あー、なぜ俺がそういう意味でカミュ先輩と仲良くなりたいと分かったのだ?」
「愛の伝道師の勘」
棒読みだったけどもういいや。バロンも同じことを思っていたなんて口が裂けても言えない。
「よくわからんが……まあいい。まずはシュガースティック……」
「いやメモとかやめてよね。俺も何であんなこと言ったのかわかんないんだから。」
「シュガースティックはなし……と。」
「でさ、俺の要件を言ってもいいかな?」
「構わん。なんだ?」
オレは深呼吸した。
「バロンとお食事会でもどうかな?」
電話の向こうで派手な音がして、聖川の声が遠くなった。ああ、携帯を落としたか、オレは冷静にそう思った。
「す、すまない、手が滑ってしまった。」
「だとおもったよ。……で、どうかな?」
「も、もちろんやるぞ! どこにするのだ? カミュ先輩の好みに合わせる。差し支えなければ俺が手料理を振舞っても良いぞ。」
「それはこっちで決めていいよ。勝手に取り付けた約束だし。」
「……お前は来るのか?」
「嫌なら来ないよ。理由は何とでもなる。」
「いや来い!来てください!」
「そこまで言うなら……しょうがないね。」
そして冒頭に戻る。
最終的に聖川の部屋で手料理を振る舞うことになったのだが、さっきから会話が全く無い。ほぼ無音だ。なんだこの空間。
「神宮寺、醤油を……」
「あ、ああ……」
俺の最優先ミッション、それはどうやって自然にこの場所から抜け出すか。ぶっちゃけ俺は邪魔者だろう。どう見ても。俺なんなの?空気読めない奴みたいじゃん。携帯の充電がなぜかきれた。誰かからの電話を理由に抜け出すことはできない。今日用事が無いと言ってしまった。だから急用は理由にならない。
聖川がキッチンに消えていくと同時に、バロンが話しかけてきた。
「おい貴様、なんか話をふれ!」
「何で俺が?仲良くなりたいって言ったのはバロンと聖川だろ?」
「フリートークは芸能人の基本だろう!」
「いやここでそれを求めないでよ。」
「お前にしか頼れんのだ、第一、俺と奴は初対面だ!」
物音がして、聖川が次の料理を運んできた。
「お、お待たせひまっしました!」
噛むなよ。
「う、うむ。いただこう。」
……会話を広げるべきなのは、バロン、君じゃないか?
さっきからため息が止まらない。
オレが何とかしなければ。
「ちょっといいか、聖川。」
オレは聖川を引っ張ってキッチンに行った。
「なんか会話をしろよ!」
「無理だ。第一、俺とカミュ先輩は初対面だ。」
「また同じこと……とにかく何とかしろ。要は勢いだ。シュガースティック一本飲んで来い。そうすれば吹っ切れる。」
「それは無しではなかったのか?」
「……もういい飲め。俺が邪魔だろ?帰るからな。」
「ま、待て頼む。二人きりにしないでくれ。」
「知らないよ、帰る。」
「デザートまではいてくれ!」
「………………はあ。」
いつもの顔を作ってテーブルに戻る。もうどうにでもなれ。
「ねえ聖川、何でバロンと仲良くなろうと思ったの?」
「ブッ!」
お茶を噴き出す聖川。正面に誰もいなくて良かったな。
「……それは……聞きたいな。」
バロン、頬を赤らめるんじゃない。
「……ちょっとお茶の替えを淹れてきます。」
湯呑を持って立ち上がる聖川。また逃げるのかよ、俺のため息はもう数えきれない。勝手に帰ろうかな、別にいいよな、そう思い始めた頃だった。ドタドタとキッチンから慌ただしい音がして、すごい勢いで聖川が部屋に飛び込んできた。
「神宮寺!ちょっと飲み物を買って来い!」
「は?急に何言って」
「そして帰ってくるな!」
そう言った聖川の手に、シュガースティックの空の袋。それも一つや二つじゃない。ありとあらゆるツッコミを飲み込んで、俺は笑う。
「……俺、急用思い出したよ。帰るね。」
帰り際に振り向いて、どちらへとも言えぬウインクを飛ばした。
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「Side Center」との相互記念に、央さまからいただきましたマサカミュです!貴重な供給ホントありがたいです。レン様もいて…すごくかわいいです(*´∀`*)
相互リンクありがとうございました!
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