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文化祭のメイド服は安く買った既製品だったけど、幸くんが作ったら絶対可愛いメイド服が出来るんだろうなあ。思ったことをそのまま口に出せば、「あるけど。着る?」と聞かれたので着てみた。いや、折角だし。幸くんの作ったメイド服見たかったし。

「マジカルみらくる恋の魔法ー!るるるんるんる……?あれ、ランランだっけ?」
「ノーノー!マジカルみらくる恋の魔法、るんららルンルン愛のストロベリーホイッププロテイン三倍つゆだくだくの初恋フォーチュンビーム、ネ!」
「そうそう」
「シトロンくん、なんでこういうのは流暢に言えるのかなあ!?」

しかもプロテインとか言ってるよね?本当にその呪文かけられて嬉しいの!?最後ビームとか言ってるけど大丈夫!?


幸くん作のとっても可愛いメイド服を着たので、とりあえずこういうのは至くんに見せるものかなぁと部屋に向かっていたら、廊下でシトロンくんと会って沢山褒めてもらった。
二人で至くんの部屋に突撃して、私がお兄さん二人に散々褒めてもらって満足した頃、どうせならメイドカフェを体験したいとシトロンくんが言い出した。今、シトロンくんのお願いをきかないという選択肢は私には無い。多分劇団員のみんな、無い。
ということで、丁度臣くんと作ってあったプリンを提供しながら、二人がやっているソシャゲでつい最近まで行われていたというメイドイベントの台詞を唱えることになったのだ。長くて覚えられないけど。
ちなみに、そんな呪文とかには一切の興味を示さず、端の席でもくもくとプリンを食べているのは十座くんだ。

「これもこれでドジっ子っぽさがあっていいけど」
「じゃあこれでいいよね!プリン召し上がれ!」
「なまえはもっと向上心を持ってほしい」

これに向上心を持ってもどうにもならないと思います。なんて軽口をたたきながら、二人にプリンを勧める。
十座くん、そろそろ食べ終わるからおかわり用意した方がいいかな。

「それにしても、なまえはメイド服とか着ても全然恥ずかしがらないね」
「だって、幸くんの可愛い洋服を着て恥ずかしがるようなことなんて何もないもの。着こなせてるかはまた別の話だけど」
「なる」
「とっても可愛いネ!」

それに、ここのみんなが色んな衣装を着て演技をするのを見てきたから、普段と違う服を着ることがそんなに特殊なことと思わなくなっているのもあるかもしれない。

メイドさんらしさを目指してなるべく綺麗な姿勢でプリンを食べるご主人様達を見ていたら、談話室のドアが開いた。

「!? なっ、なんだよこれ!?」
「あ」
「アザミ、おかえりダヨ!」

振り向けば、こっちを見て目を丸くしている莇くんと目が合った。
そうだよね、私今メイド服だから……!
相手が驚いた顔をしている理由を悟った瞬間、顔が、一気に熱を帯びる。

「…………」

おかわりのプリンを貰いに来ていた十座くんの腕を掴んで、私はそろそろとその背後に身を隠した。

「恥ずかしくないんじゃなかったっけ?」
「……。急に、なんか、ちょっと、」

もごもごと至くんに言い訳をしながら、十座くんの服を握る力を強める。
好きな人に見られるのは別っていうか……。それまで微塵も感じなかった恥ずかしさを突然感じ始めたことに、正直私もびっくりしている。
だって、莇くんに見られるとか、全然考えてなかったんだもん!
至くんやシトロンくんには、自ら「可愛いー?」なんて言って見せたくせにと、自分でも思う。でも、だって、全然違うんだよ……!

「プリンのおかわり貰えるか?」
「十座くんごめん、あとちょっとこのまま待って。そしたら私の分もあげるから!」
「いいのか」

いい。全然いい!私味見と称して既に臣くんと食べてるし!だから、もうちょっと壁になっていてください!
楽しそうに状況の説明するシトロンくんに、ちょいちょい至くんが訂正を加える。莇くんがそれをどんな顔で聞いてるのかは、隠れている私からは見えない。見えなくて……気になる。すごく気になる。莇くん、何も言わないし。

「あの、莇くんもプリン食べる?」

十座くんの背後からちょっとだけ顔を覗かせれば、しっかりと莇くんと目が合ってしまって、「ぴゃあ!」と変な声を出しながらまた隠れた。うわあん、絶対変に思われた!莇くん、なんか顔赤かった気がするし!
って、至くん、そこで肩を震わせてるのわかってるんだからね……!

「いや、俺はっ……」
「なまえがオミと作ったプリン、美味しいヨ」

シトロンくんに言われて、莇くんが一度言葉を区切る。
莇くん、あまり甘いもの食べないし、断られちゃうかな?と思ったけれど、「後でもらう」と言って、莇くんは足早に談話室を出ていってしまった。ちゃんと片付けをするようにと、私達に念を押して。

「もういいか?」
「うんーっ」
「……離してもらわねぇと、動けねえんだが」

ううーっ、と羞恥で唸る私が離れるのを待ってくれる十座くんは、優しい。さすが九門くん自慢のお兄ちゃん。

「アザミ、なまえのこと可愛いって言ってたネ」
「言ってなかったじゃん、そんなこと!」
「いや、言ってた言ってた」
「至くんまでーっ」

そんなこと言ってもコーヒーのおかわりくらいしかないし、ゲームの呪文は完璧には言えないからね、と言いながら、ようやく十座くんから離れた私は、彼に私の分のプリンをあげた。嬉しそうで何より。

夕食の後、未だ莇くんとお互い目を合わせられずにいたところに、「プリン、うまかった」と莇くんがわざわざ言いに来てくれて、それまでの恥ずかしさが全部すっ飛んで頭のなかがお花畑になった。
莇くんが部屋に戻ってからも、にへにへ笑っていたら、通りすがりの至くんに頭をぽんぽんされた。なんだったんだろう、今の。

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