小春日和のこと

いづみさんという総監督はすごくて、なんと結成三日目にして新生春組に初代春組と同じ五人の劇団員を揃えてしまった。
皆、勧誘のためのストリートACTがんばってくれたんだなあ。私はご飯の準備をしてたから行けなかったけど、観たかったなあ。次は一緒に行けるといいな。
いづみさんからは私も役者をやらないかと誘われたけれど、なんだかそれは違うと思ったからいづみさんにはそう伝えてお断りさせてもらった。後々ミーティングで支配人に立ち上げ当時からMANKAIカンパニーの役者は男性だけだと聞いて、やっぱり私が入るのは違うと思ったのは正しかったんだと思った。もしかしたら、小さい頃に来た時、はっきりと意識はせずとも男の人ばかりなのをわかっていたのかもしれない。それに、考えてみれば雄三おじちゃんの話に出るのもいつも男の人ばかりだった。
まったく同じにする必要はないかもしれないけれど、MANKAIカンパニーとしての形はなるべく引き継いだ方がいい気がするし、そう詳しくないものの、私としてはやっぱり昔の面影を追ってしまう。

新しく入った茅ヶ崎至さんはサラリーマンで王子様みたいな顔立ちのイケメンで、シトロンさんは海外からの留学生という、異国情緒溢れる雰囲気のイケメンだ。つまりはイケメン。顔面偏差値高いなあ、すごいなあ、新生春組。

***

同じ寮に住んでいるはずなのに皆木さんの姿をまともに見かけなくなった時は心配したけれど(碓氷くんに聞いてもまともなお返事をもらえなかった)、無事に舞台の脚本も出来上がり、今は春組皆で毎日稽古をしている。
日々の洗濯物は流石にいいと言われてしまったので、せめてものお手伝いをと皆の稽古後のジャージの洗濯は私がすることになった。運動部のマネージャーみたいだなあ、なんて思ってちょっと楽しんでいる。

「これは皆木さんのですよね」
「綴でいいよ。名前だって同じカンパニーの仲間だろ」
「オレも!同い年だし、名前で呼んでほしいなって思ってたんだ」

皆木さんと佐久間くんの言葉にぱちくりしたら、「じゃあ俺も」と茅ヶ崎さんに「ワタシもシトロンでイイネ!」とシトロンさんまで続く。すかさず「いやアンタは既に呼ばれてるだろ」と皆木さんがツッコミを入れていたけれど。シトロンさんのボケに綴さんがツッコミを入れるのも、定番になってきたなあ。

「真澄も、それでいいだろ」
「なんでもいい」

綴さんの言葉に被せるようにして返事をした碓氷くんに、相変わらず他人への興味が薄いと笑ってしまう。いづみさんにだけは別だけど。

「ええっと、じゃあ、綴さん。ジャージ、どうぞ」
「ああ。ありがとな」

急に呼び方を変えるのって、気恥ずかしい。でも、ちょっと仲良くなれた気がして嬉しい。
はにかみながら渡せば、皆木さん改め綴さんは、優しく笑ってくれた。

「こっちは咲也くんの」
「ありがとう!えっと、オレも名前ちゃんって呼んでもいいかな」
「もちろんだよ!」

こくこくと頷くと、咲也くんはいつもの明るい笑顔を返してくれる。咲也くんが笑うのを見ると、なんだかホッとする。

「真澄くんのがこれで」
「ん」
「それから、至さん」
「ありがと」
「シトロンさん」
「名前、いつもありがとうダヨ!」

一人一人にジャージを手渡しながら、やっぱり恥ずかしさがあって、段々頬が熱くなっていく。

「なんか、照れますね」

誤魔化すように頬を掻いて笑えば、穏やかな微笑みが返ってきた。

稽古、あんまりうまくいっていないっていづみさんからは聞いている。私もこの前見学をして、正直大丈夫かな、間に合うかなって不安になった。
それでも、今ここにいる五人でどうか最高の舞台を作ってほしいって、この瞬間つよく思った。
私に出来ることなんて、洗濯とか掃除とか、あとは成功したり失敗したりする料理くらいで、実際ほぼ何の役にも立ててはないかもしれないけれど。でも応援する気持ちだけだったらきっと誰にも負けないから。
だから、どうか少しずつ皆が一緒に、前に進めますように。

雄三おじちゃんを呼ぶと支配人に聞いたのは、その日の夜。
それを聞いて大喜びをする私をいづみさんはふしぎそうに見ていたので、元々ご近所さんでお父さんの知り合いなのだと話した。私がより仲良くなったのは、MANKAIカンパニーからおじちゃんが出てからだけど。
おじちゃんに会うの久し振りだから嬉しいなあ、楽しみだなあ!
……雄三おじちゃん口悪いけど、春組の皆、大丈夫かなあ……。
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