繋がれたふたり

「うわぁ……」
「名前もドン引きしてんじゃねーか左京さん」
「外してほしかったら、ちっとはチームワークってもんを身に着けろ」

思わず出た声を左京さんへの交渉材料に利用されたけれど、当然ながら左京さんはそんなこと意に介さない。手錠で繋がれた万里くんと十座くんの方を振り返りもせず、迫田さんを連れて仕事に行ってしまった。
……うわぁ、どうしよう。

「えっと、何か不便なこととかあったら言ってね。多少のお手伝い程度なら出来るかもしれないから」

気休めにもならないことしか言えない私の前で、万里くんと十座くんは全力で不機嫌な顔をしている。こんなの、言葉はなくても喧嘩しているようなものだ。怖ぁ。

***

箒とちりとりを持って階段の掃除をする。階段は埃がたまりやすいから、マメに掃除をしておかないと。
一段一段箒で掃きながら、今もまだ不機嫌全開で手錠に繋がれている万里くんと十座くんのことを考える。あの二人、仲良くなるどころか悪化している気がする。
少しでもストレスを発散させないと、今にものすごい喧嘩が起きそうで気が気じゃない。
二人で遊べるゲームでも持っていく?……いや、絶対喧嘩になるよね。
ストレス発散って何がいいかな。
考えるのに夢中になっていた私は、一段下がろうと後ろに伸ばした足にあまり意識を向けていなくて、階段を踏み外した。

「っ、」
「うわ、あぶね!」

後ろに傾いた身体が落ちる前に、背中を支えられた。私の背中を支えてくれている掌は、二つ。ジャラ、と手錠の鎖の音がした。

「万里くん、十座くん」
「ったく、気を付けろよ」
「平気か?」

ありがとう、とお礼を言うと、二人ともそっけない反応をしてそのまま歩いていってしまう。
……二人して、助けてくれたんだなぁ。
なんていうか、意外と優しい、というか。見えなかったけれど、今のはちょっと息があっていたんじゃないかな。そんなことを言ったらそれこそ喧嘩になるだろうから、言わないでおくけど。
って思った傍から、二人が向かった方角から喧嘩する声とそれを仲裁する太一くんの声が聞こえてきた。
うーん、やっぱり相変わらずだ。

***

「臣さん、いづみさん見ませんでしたか?」
「さっき買い物に行くって言ってたぞ」

そっか、じゃあ帰ってきたら確認しよう。
臣さんにお礼を言うと、太一くんが「そういえば外に行った万チャンと十座サンはどうしてるッスかね」と疑問を口にした。どうりでさっきから静かだと思ったら、外にいたとは。
太一くんによると、二人は玄関先で左京さんが帰って来るのを待っているらしい。なんてガラが悪いお出迎えだろう。
様子を見てみようと三人で外を覗いたら、そこにいるはずの万里くんと十座くんはいなくて、代わりに私が捜していたいづみさんがいた。

「いづみさん?お買い物に行ったんじゃなかったんですか?」
「それが……」

いづみさんが外に出てすぐひったくりに遭って、万里くんと十座くんがそれを追いかけてくれているらしい。
二人が行ってから暫く経つそうだけど、でも自転車に乗っている犯人を追いかけるのなんて……。

「あ、あれって!」
「万里くん、十座くん、大丈夫!?ひったくり犯は――!?」
「これ」

ぽい、と乱暴に万里くんが男の人をつき出す。ボロボロになっているその人が、ひったくり犯なんだろう。

「捕まえられたの!?」
「相手、自転車だったんだろ?よく追いつけたな」
「回り込んだから、余裕」

しれっと答える万里くんも、十座くんも、本当に平気そうな顔をしているからすごい。手錠で繋がれたまま、自転車で逃げた犯人を捕まえたってことだもんね?ただ事じゃない。
「すごいッス!」と感心する太一くんの言葉にうんうんと頷いて同意する。

「二人とも、ありがとう!」
「身内が目の前でやられてんだ。黙って見過ごすわけにはいかねぇだろ」
「……身内って思ってくれてるんだ」

驚きと嬉しさがこもったいづみさんの言葉に、十座くんは気まずそうな顔で「忘れろ」と言ったけれど……十座くんの言葉を嬉しいと思っているのは、いづみさんだけじゃない。十座くん、まだ結成したばかりの秋組を、この劇団を、身内って思ってくれているんだ。普段十座くんはあまり言葉にも顔にも気持ちを出さないから、よかった、って、嬉しさと同時に安堵が広がった。

手錠で繋がれるという異常な状態の万里くんと十座くんを人目に触れさせるわけにはいかないし、ひったくり犯は臣さんと太一くんが警察に連れて行ってくれることになった。私は、いづみさんと一緒にお買い物だ。

左京さんが帰ってきて、臣さんの作ってくれたおいしい夜ご飯を食べながら、今日あった出来事を話す。いづみさんに怪我がなかったかを真っ先に心配してくれる辺り、やっぱり左京さんは怖いけれどいい人だなって思う。
しかも、いづみさんだけでなく私にまで、買い出しには護衛をつけるか、なんて言い出すからびっくりした。

「過保護だな」
「意外ッス」

臣さんと太一くんの言葉に頷きながら、もしかしたら左京さんも、十座くんのようにみんなのことを身内って思ってくれているからこその言葉かもしれないって考える。そうだったら、嬉しいな。しかも、それに私も入れてくれているのなら、更に。

「それより、コレ。さっさと外してほしいんすけど!」
「もう限界っす」
「――そうだったな」

カチャリと音を立てて、手錠が外される。それにホッとしたのは、多分万里くんと十座くんだけじゃないだろう。
手錠が外されたそばから口喧嘩を始めた二人に、左京さんが鋭い目で脅しをかけていたけれど。
手錠の効果……多分きっと、ちょっとはあったと思いたいな。
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