サンカクを探して

「もしかしたらオレは、名前さんが期待する芝居を見せられないかもしれない。……悪い」

MANKAIカンパニーに戻ってきた天馬くんは、舞台にトラウマがあることをみんなに告白してくれた。その時、私に向けられた言葉は予想外のもので、咄嗟に、何も言うことが出来なかった。
私も何かを言われるとは思っていなかったから。
言われた内容も、まさかそんなことを言われるとは思わないものだったから。

***

「あれーっ?そこにいるのって名前ちゃん?」
「一成さんに三角さん!どうしてこんなところに?」
「今日はすみーとサンカク探ししてるんだよね!」
「うん!」

下校中、まさか学校の近くで会うなんて思いもしなかった二人の姿に驚いて、サンカク探しはこんなところまで来るのかと更に驚いた。
驚いた、けど……二人に会えたのは嬉しいし、サンカク探しはちょっと気になる。

「私も一緒にやってもいいですか?」
「もちろん!名前も一緒にやろー」
「じゃ、帰りながらサンカク探そっか!」

快く受け入れてくれた二人と並んで歩き始めたら、すぐに三角さんが「はっけーん!」とお店の看板を指差した。あのお店、いつも見るけど、看板に三角が入ってるなんて知らなかった。「オレも発見!」とすぐに一成さんの声があがって、道のブロックが三角形になっていることに気が付く。ここにも、サンカクが。知らなかったというより、視界に入ってはいたかもしれないけれど、全然意識をしていなかった。
サンカクって、色んなところにあるんだなあ。
二人には大分劣るけれど私もいくつかサンカクを見つけながら歩く帰り道が、なんでか、すごく楽しい。

「こんなに集中して周りを見ながら帰ったことってないから、毎日通ってる道なのに、今日はすごく新鮮に感じます」
「それな!サンカク探そうって思うと、自然と普段と違った目線で風景が見れるし、オレもインスピレーションわきまくり!」

それでわいたインスピレーションをもとに一成さんが描く絵は、どんなものなんだろう。描けたら見せてくれるって約束をして、三人でサンカク探しを続ける。
よく知ってるはずの道なのに、まるで今日初めて通るくらいの、それだけ沢山の発見がある。私、今までどうやって学校に通っていたの?ってくらい。

「名前、目がキラキラになったねー」
「キラキラ、ですか?」
「うんうん!……最近、ちょっと不安そうな顔することが多かったから、実はちょっと気になってたんだよね」

一成さんの言葉に驚いて、足が止まった。
心当たりが、ないわけじゃない。でも、気付かれるほど思いつめているつもりはなかった。やっぱり、一成さんは周りのことをよく見てる。それに、三角さんも。

「名前ちゃんは優しいから、テンテンの言葉、気にしてるんじゃないかなーって思ってさ」
「天馬くんに、期待する芝居を見せられないかもって言われたこと、ですよね」

それを気にしているのは、私が優しいからではないと思う。優しいのは、会ってすぐ、興奮のままに言った言葉を覚えていてくれて、それを真摯に受け止めてくれていた天馬くんだ。私は自分の無責任な発言が恥ずかしくて申し訳ないと反省する立場なわけであって。

「あのテンテンの言葉は、名前ちゃんが引き出してくれたんだよ」
「引き出した……?」
「だってテンテン、自分の弱みとか、ああいうこと言うの絶対嫌がるじゃん?って、これはテンテンに限ったことでもないけど。それを言えたのはきっと、テンテンにとっていいことだったってオレは思うよ」

自分のトラウマを告白したのは、天馬くんが夏組のみんなとまっすぐに向き合ったから。そして私にあんな風に謝ったのは……謝ったのは?なんでだろう?
ああ、そうだ。きっと、役者としての天馬くんのまっすぐな姿勢がそうさせた。

「でも私、あの時何も答えられなかったです。絶対、言うべき言葉があったのに」

言いたいことは、あったのに。その気持ちは今でもどう言葉にすればいいのか、曖昧だけど。

「だいじょーぶ。てんまは名前の話、ちゃんと聞いてくれるよ」
「そうそう!それに、オレ達だって名前ちゃんの話ならいつだって聞いちゃうよん」

にっこり笑う三角さんと、ウインクをする一成さん。
いつも賑やかで明るい夏組のなかで、やっぱりこの二人はお兄さんなんだなぁって思う。公演を間近に控えて、大変なのは二人の方なのに、私が励まされちゃって申し訳ない。
でも、きっとここで謝るのは違うから。「ありがとうございます」とお礼を言ったら、二人は笑顔を返してくれる。そんな二人の優しさに安心感が広がって、私も笑みがこぼれた。

「私、MANKAI劇場で新生夏組の舞台が観たいです。お客さんを笑顔にして、そして演じてるみんなも笑顔になれる舞台が」
「モチ!任せちゃって!」
「がんばるー!」
「天馬くんにも、ちゃんと私が言いたいこと、伝えますね」

ぐっと拳を作ってみせたら、二人はその調子だと応援してくれた。そこから、寮に帰るまでのサンカク探し競争には見事敗北してしまったけれど。
……きっと、これからまだ時間はある。夏組の公演が成功したら、まだまだ、私はサンカク探しをみんなと一緒に出来るはずだから。きっとそうしたら、サンカクを探すのだって今よりずっと上手になれるよね。
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