Sweet | ナノ


▼ 29

寒さは和らいできたとはいっても、やっぱりまだまだ寒い三月のはじめ。
卒業を間近に控えた私達三年生の教室の近くを歩くと、学校のなかでそこだけが普段よりも賑やかで、どこか浮足立っているような雰囲気を感じる。卒業式のリハーサルを終えて、ぞろぞろ、だらだらと体育館から教室へと向かう、ただそれだけの時も、もう二度と戻らないものなんだと思うと、ふしぎな感覚だ。
教室の隅に固まって笑いあっている子達とか、廊下で追いかけっこをしてる子達とか。見慣れた景色と、そこに当然のようにいるみんな。もうすぐそれが私の日常ではなくなることが、にわかに信じがたい。


「え、告白するの!?」

友達の恋は、勿論いつだって応援はしていた。でも自分も恋をしている今、告白というものはこれまでよりずっと現実味を帯びた、切実で身近な問題に感じる。

「だって、今しかないじゃない。鈴木くん、高校は別だし。このままだと卒業したら会えなくなっちゃうし、フラれても、それはそれで学校が違うから気まずくもないし」
「そっか。そうだね」

高校に行ったら、会えなくなる。
その言葉が、ひっかかった。
私は泉田くんとは今の時点で学校が違うけど――会っていたのは、いつも図書館で。それって、泉田くんが受験勉強に来ていたからだから、もう高校に入ったら来なくなるのかな?そもそも、部活にだって入るかもしれない。まぁ泉田くんは劇団があるからわからないけど、でも私だって部活に入るかもしれないし。
そうしたら、図書館で会うことはなくなるの?
学校が近くなるから、勝手に、会い続けられるものだと思い込んでいた。会いやすくなるって喜んでいた私は、もしかしたらばかみたいな見当違いをしていたのかもしれない。
そうだ、私が泉田くんと会えるのは大体いつも偶然で、でもあまりによく会えるから、約束しているみたいな気持ちになっていた。

「やっぱ屋上だよ」
「屋上、行けないじゃん」
「体育館裏はー?」

どこで告白しよう、と話している友達は、きゃあきゃあはしゃぎながらも照れた様子が可愛らしくて、なんだかまぶしいような、羨ましいような気持ちになった。

「名前?なにぼーっとしてんの?」
「んーと、青春だなあって思って」

他人事だと思って、と怒るふりをされて、一緒になって笑う。
他人事じゃないからこそ、こんな複雑な気持ちになるんだけどなあ。

「……告白するの、こわくない?」
「こわいよ!だからみんなと話して、少しは紛らわせようとしてんの!」

恐る恐る、気になっていたことを聞いた私に、当然でしょ、って顔で答えが返ってきた。「それに、」と意思の強い瞳がまっすぐに私を見つめる。

「私が告白するのは、自分の気持ちを大事にしたいから。そりゃあもしかしたら、相手にとっては迷惑ってこともあるかもしれないけど、そんなのこっちにはわからないじゃない。それなら、私は好きって思ってる今を大事にしたいし、後悔したくない」

真面目に答えてくれたその子に、おおー、とみんなが拍手を送る。
……と思ったら、全員、こちらを見て一斉ににんまりと笑みを浮かべた。うわあ、怖……。

「なになに、名前ってばどうしちゃったの?」
「ハッ!まさか本当にアクターズカフェの人に……!」
「ちょっとなにそれ!?私知らないんだけど!」

一気に矛先がこちらを向いて、思わず「ひぇ、」と肩が竦んだ。
下手なことを聞いたらこうなると、わかっていなかったわけじゃないけれど……さて、どう説明したものかなあ。
質問攻めにあうとわかっていて、それでも聞いたのはきっと、背中を押してほしい気持ちが私のなかにあったから。伝えるべきものだと、胸の奥では思っていたからだ。
泉田くんに、自分の気持ちを。
それは友達が言ったように、自分の気持ちを大事にしたいからなのかもしれない。そして、できることなら……これからも、泉田くんと一緒にいたいから。

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