透君は意地悪だ。いや、基本的にはとっても優しい。いつだってにこにこ笑っていて感じが良く、仕事も完璧。探偵だから頭も切れる。でも、私には時折、ちょっとだけ意地悪なのだ。

「ぬー…」

透君は、さっきから唸る私を頬杖をついてにこにこと見ている。

「全然分かんない」
「分からないんですか?」
「うー…うー……うーん、分かんない」
「本当に?」
「うん」
「それはそれは。僕としては相当簡単な問題を出したつもりだったのですが、なまえさんにはこれも分かりませんでしたか。小学生でも分かるような問題だと思ったんですけどねぇ」

ほら。他の人には絶対こんなこと言わないだろうに、透君は私には結構遠慮せず、どんどん嫌味を言ってくる。何故だ。解せぬ。

「っていうか透君、やっぱり私のことなまえさんって呼ぶよね」

私には「透君」呼びをさせるくせに。「安室さん」の派生として「透さん」って呼ぶことだって許してくれなかったのに。

「すみません、癖のようなもので」
「ふーん?」

でも、コナン君は「コナン君」って呼んでるじゃない。自分でも、コナン君と比べるのはどうかと思うけど。

「いつまでもそんな顔をしていると、元に戻らなくなっちゃいますよ」
「そんな顔ってどんな顔−」
「ちょっと僕には出来ませんねえ」
「うっわ、なんかすごく失礼だね透君!?不細工ですみませんねっ」
「そんなことは言っていませんよ。僕はなまえさんのこと、とても可愛いと思っていますよ?」
「それ、言葉通りの可愛いじゃなくて、からかい甲斐があるってことで言ってるでしょ。私だってそれくらい分かってるんだから」
「確かに、からかい甲斐はありますけど」
「うわー、遂に認めた」
「好きな子はいじめたくなっちゃうタイプなんです」
「絶対嘘だ」
「ひどいなあ。そんなにスッパリと否定しなくても」
「だって、何においても器用そのものの透君に限って、それはない」
「そんなことありませんよ」

私の不審さ全開の視線も笑顔で受け流す透君には、やっぱり私が何を言おうと敵わないんだろう。それでも、ポアロに通ってしまうのは、ここのコーヒーが大好きなのと、透君にからかわれるからって私の癒やしの場所を諦めてたまるかって思いがあるのと…なんだかんだで、透君とこうして過ごす時間が、楽しくて、嬉しくて、好き、だからだ。前よりポアロに来る頻度が増えたとか、そんなことは…まあ、気のせいだ。

「じゃあ、そろそろ帰りますね。お会計をお願いします」
「はい」

鞄やら上着やら、なかなか多い荷物を持って立ち上がり、レジまで歩くと、透君がお会計をしてくれる。

「ところで、誤解されたままなのも癪なのでお伝えしておきますが」
「うん?」

レシートを受け取ろうと伸ばした手は、不意に透君に捕まれた。そして、ぎゅっと両手で握りしめられる。小さな私の手は、透君の両手にすっぽりと収まってしまった。透君の手が思った以上に大きくて、熱くて、ドキッと心臓が跳ね上がる。

「僕は、本当に君のことを可愛いと思っているんですよ、なまえちゃん」

どさどさどさっ

手にしていた荷物は全部地に落ちて、私の足を踏ん付けた。

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