「あー!あそこにさんかく!」
「どこ?」
「赤い屋根のお家の後ろにある、看板のとこー」

三角くんが指差した方に目を凝らす。赤い屋根って、遠くにあるあの家だよね。後ろに看板あるし。でも、そこにさんかくって……さんかくどころか、ぼやけていて文字が一つも読めない。さんかくの形をしたものなんて、存在の認識すら出来ない。そんなものある?

「三角くんって視力いいんだね」
「んー、そうみたいー?」

そうみたいってことは、きっと劇団の人にも言われたことがあるんだろう。
三角くんはいつも、近くも遠くも沢山見て、さんかく探しをしているもんね。そりゃあ視力がいいわけだ。

「三角くんの目で見る世界は、大好きなさんかくがいっぱいで楽しそうだね」
「うん!」

それに、ねこさんとか、劇団の人達とか。
私よりも高いところから見る、私よりずっと遠くのものが見える世界は、きっと三角くん自身のように明るくて優しいし、そうであってほしいと思う。

「なまえちゃんの目に見える世界は、さんかくですか?」
「えー、さんかくかなぁ」

相変わらず質問の仕方が三角くんだなぁなんて思いながら首を傾げて、すぐに私は、「さんかくかも」とにんまり笑った。
もちろん、三角くんはそれを聞いた途端、目をキラッキラに輝かせて「さんかくいいなー!どんなさんかく?」と尋ねてくる。その様子が微笑ましくて、嬉しくて、笑いがこみ上げた。

三角くんの見る世界は素敵だろうけど、でも私の三角くんほど優れてはいないこの目では、三角くんは普段殆ど見ることが出来ない、一番いいものを沢山見ることが出来るんだ。
だからこの目に映る世界は、私は結構、かなり、気に入っている。

「私の目で見る世界はね、沢山のさんかくを見つける三角くんが、いっぱいいっぱい、楽しそうにキラキラしてるのを見られるんだよ」

いつもいつも、三角くんばかり見ちゃう。見つけちゃう。
三角くんだけが特別に、とびきりキラキラして見えるこの目はきっと特別仕様だ。
三角くんを見つけると、自然とさんかくも目に入って、さんかくを持って嬉しそうにしている三角くんに、こっちまで嬉しい気持ちになる。だから、私の目に映る世界はとってもさんかくと言って差し支えないと思う。

言われた本人は、「オレー?」と不思議そうにしているけれど。ふふ、おめめがさんかくならぬ、まんまるだ。

「オレの目も、なまえちゃんのことをすぐに見つけられるさんかくな目だよ」
「それってさんかくなの?」
「うん、さんかく!」

三角くんの言葉にちょっと照れながら、それを誤魔化すように質問したら、満面の笑みで頷かれた。

「なまえちゃんを見つけるとね、特別なさんかくを見つけた時と同じくらい、嬉しくて、やったーって気持ちになるんだー」

そう、だったんだ。いつも、笑顔で手を振ってくれる三角くんの顔を思い出して、そんな風に思ってくれていたのかなと思ったら、頬が一気に熱くなった。

「なまえちゃんはさんかくみたいにかわいいねえ」
「え、ええー?」

どうにか、それだけ言いながら、にこにこと効果音がつきそうな笑顔を見せる三角くんから目を逸らす。ダメだ、顔が、真っ赤だ。隠せない。
さんかくみたいにって何ー?とか、笑って言えばいいのに。言えたらいいのに。
深い意味なんてないって分かっていても、屈託なく言われた「かわいい」の一言に心臓を撃ち抜かれた私には、そんな余裕なんて一ミリも残っていないのだ。

「なまえちゃん、顔赤くなってるー?だいじょうぶ?」
「だっ、だいじょうぶ!なんでもないよ!本当に!」

慌ててぶんぶん頭を振れば、私の様子をじいっと見つめていた三角くんが、よかったとにこりと笑う。

「かわいいねえ」

やわらかな声でもう一度言われたその言葉は、どうしてかな、そんなはずないのに、「深い意味」があるみたいに思えた。

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