みょうじがいつものお礼にとくれたのが、アイツの好きな菓子なのは一目見てすぐわかった。
俺としては、正直菓子よりもみょうじが俺宛に書いたメモをもらえたことの方が嬉しい。……とか言うとヘンタイくせーな。

いつもより遅い、放課後の帰り道。隣を歩くみょうじは普通に歩いているつもりなんだろうけど、日頃のドジっぷりを知っているからか、やたら危なっかしく感じて目が離せねぇ。
そうして歩いていると時々目が合って、そういう時はお互い口を閉ざして目を逸らす。……それが、嫌ではない。心臓がむず痒い感じがして、なんつーか、落ち着かねーけど。
なんてことない会話をしてるだけのはずなのに、みょうじが話してるってだけで、脳が麻痺してあんまり物事を考えられなくなる。俺に向けて話される言葉一つ一つがぜってー逃しちゃいけねぇ大事なものに思えるとか、隣を歩いてるこの状況がずっと続けばいいなんて思ってるとか……ほんと、らしくねー。
すげー似合わねぇしダセェって思うくせに、思考とは裏腹に気持ちの方は満たされてるのを感じて、しかもそこにタイミングよくみょうじの満開の笑顔が向けられたりするから、認めざるを得ない。
今、ガラにもなく自分が喜んでること。
みょうじのことばっか見てて、考えてること。
コイツのことが好きなこと。

「なぁ、それ」

みょうじの学生鞄にくっついているものを指差すと、みょうじは自分の鞄の取手を見て、にっこりと笑った。

「可愛いでしょ?ねこちゃん。友達がくれたんだ」

いや、「ねこちゃん」って……。
言い方一つに振り回される自分がバカみてーだ。なんでいちいち言い方が可愛いんだよ、なんて理不尽に文句を言いたくなる。こんなことぜってー言わねーけど。

「手のところがマグネットになってるんだよー」

ほら、とねこのぬいぐるみを鞄から離して、ぬいぐるみの両手をこちらに向けて広げる。そんな動作一つにいちいち心臓がつかまれたように苦しくなる。
頻繁に起こるこの現象に、はじめは俺がおかしくなったんじゃないかと思ってたけど、最近わかんねぇ。 おかしいのは俺じゃなくて、可愛過ぎるみょうじなんじゃないかと真剣に考えては、バカじゃねーのと自分で呆れるのを繰り返してる。
一瞬真澄さんに相談してみようかと思って、それは悪手だとすぐに気付いてやめた。それにこんなの、ダサ過ぎて誰にも知られたくねー。特に秋組のヤツら。

「手触りも、ふわふわで気持ちがいいんだよ。ほら」

相変わらずにこにこしながら、みょうじが腕を広げたねこを差し出してくる。

「ぎゅー」
「!?」

そう言って、みょうじが俺の腕にふわふわした手触りのねこをくっつけた。ぎゅーって言われただけで、抱きつかれたわけじゃない。んなことはわかってる。わかってるけど、そういう問題じゃねー!

「ふふっ、泉田くんとねこちゃん、可愛い」
「なっ!……か、可愛くはねぇだろ」
「えーっ!可愛いよー!」
「それは、」

それはお前だろ。
口から滑り出そうになった言葉は、直前に呑み込んだ。

「……俺が似合ってどうすんだよ。こういうのはみょうじだろ」
「えー、そうかなぁ」
「そうだって」

自分の腕からねこを外して、お返しとばかりにみょうじの腕にねこの手を巻き付ける。
……細ぇな。
同じことをしただけのつもりが、華奢な腕を意識せざるを得なくて、急にどぎまぎした。なんで俺ばっかり振り回されなきゃいけねーんだと悔しい気持ちになっていたら、腕にねこをくっつけたままこっちを見上げたみょうじがにっこりと笑いかけてきたから、「は、」と声が出た。
コイツどこまでわかってやってんだ?……どうせ全部無自覚なんだろうけど。タチ悪ぃ。

「今日はこのまま帰ろうかな」
「ねこつけたまま?」
「だって、泉田くんがつけてくれたんだもん」

上機嫌なみょうじの、その一言がどういう意図で言われてんのか分かんなくて、なんて返せばいいのか分かんねぇまま、みょうじの腕からねこのぬいぐるみを外した。

「あ!なんで取っちゃうの!?」
「なんででも。それに多分落とすぞ」
「……否定出来ない」

そんなもん腕につけて歩いてたらおかしいだろ。おかしいのに、何故かすげー可愛いから絶対ダメだ。
大人しく鞄に戻したねこを撫でるみょうじになんとはなしに「動物、好きなのか?」と聞く。

「うん。好きだよ」
「魚は?」
「魚?おいしいよね」

……話振るの下手過ぎんだろ。
自分に呆れ果てながら、半ばヤケになって鞄からペラペラの紙を取り出してみょうじに差し出した。今日、ずっと渡したいと思ってたモノ。まさかこんなかっこ悪い渡し方するとは思わなかったけど。

「これって、水族館のチケット?」
「もらった。 あー、だから……みょうじが良かったら、一緒に行かね?」
「! いいの!?行きたい!」

ぱぁっと、それは嬉しそうに表情を輝かせたみょうじがこっちに詰め寄るものだから、思わず後ずさった。
近ぇ!そんな顔して近付いてくんな!
必死でそう思いながらも、二つ返事で頷いてくれたことに安心して、嬉しいと思ってる自分もいるのは自覚してる。

「わぁ、どうしよう……すっごく嬉しい」
「(かわいい)」

素直に思ったその言葉を口にしそうになって、寸でのところで止めた。
ついでに、チケットを見つめて注意が疎かになってるみょうじがまっすぐ電柱に向かって歩いていくのも止めておいた。

***

そして、約束した土曜日。
天気は晴れ。暑すぎず、寒すぎず、まぁまぁ過ごしやすい気温。

「泉田くん!」

パタパタと駆けてくるみょうじに、転ぶんじゃねーかと心配で声をかけ……ようとして、言葉を失った。
俺としたことが、自分では今日何を着ようかと散々迷ったくせに、失念していた。
初めて見る私服姿のみょうじに、目が釘付けになる。

「ごめんね、待たせちゃったかな?」
「いや、全然」

なんていうか……すげーかわいい。

じっとみょうじの姿を見つめながら、俺は今日もすげー勢いで暴れてる心臓を力技で抑えられないものかと、内心奮闘していた。

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