はじめて抱いた、これまでに知らない私の「特別」な気持ち。それに名前をつけたら「恋」になった。いちばんで、大好きな人。

世間一般では、高校生の恋愛なんてお遊びのようなものなんて言われることがあるのは知っている。恋に恋をしているだけとか、興味本位とか。耳にしたことのある言葉は、全面的に受け入れるのは癪だけど、完全に否定しきれない面があるのも事実だ。
「恋したい」が口癖の友達はそれを言うことで満足している節があるし、「将来結婚するの」と言いながら二人のインステアカウントを作っていたクラスメートのカップルは先月破局した。付き合って三ヶ月だった。

けど、気付けば相手を追っている視線も、頭のなか全部がたった一人で満たされていることも、目があっただけで毎回律儀に飛び上がる心臓も、話しかけられでもした暁には自分は今世界で一番幸せな人間だと確信するのも──ほんの一瞬で浮わついたり、落ち込んだりする、そんな、到底人ひとりに抱えきれないくらいの感情が、「お遊び」と軽んじられていいとも思えない。
そもそも、将来の保証がないのなんて、子どもも大人も一緒じゃない。

だから、私は昨日も今日も、そしてきっと間違いなく明日も明後日も私の全部をいっぱいにする万里くんへの気持ちは、誰がなんと言おうと絶対本物だって思っているし、そうだということを知っている。
だってこんなにいつでも万里くんでいっぱいで、こんなにいつも好きって思っているんだから。

そしてなんと、とても奇跡的で、とてもふしぎなことに、私が恋している万里くんも、私に恋をしているらしい。そんなことがあるものかと、頬をつねった回数は軽く十回を超えている。
こんなにかっこいい人が私を好きなんて、私が特別なんて、そんなことがあるんだろうか。……どうやら、あるらしいのだけど。


好きだなあって思って万里くんを見ていたら、私の視線に気付いたのか、万里くんもこっちを見た。「さっきからなんだよ」と笑う彼の表情に僅かな照れがある気がして、それに気付いた瞬間キュンと心臓が高鳴った。あ、好き。

「万里くんを見てただけ」
「それは分かってるって」

無造作に髪をかきあげて、ずい、と顔を寄せられる。その一つ一つをかっこいいって私が思ってること、分かってるのかな。

「見すぎって言ってんだよ」

おでこを指でつん、とされた。
そう言いながら、声が優しくて甘いから、なんだかまるで好きだとでも言われてるような気がしてしまって、頬が熱くなる。

「ダメだった?」

囁くように聞けば、「んー」と考えるような素振りを見せる万里くんの口元は緩んでいる。

「キスされてもいいんなら、いくらでもどーぞ」

なぞるように唇に触れた彼の指が、やたら熱く感じたのは、絶対私の気のせい。
今度こそ爆発しそうなくらい顔が真っ赤になったのを自覚しながら飛び退けば、万里くんはおかしそうに肩を震わせた。
あまりの恥ずかしさに反射的に逃げたものの、決してキスをされるのが嫌ってわけじゃない。それを口にするのは躊躇われるけれど。……嫌じゃないというか、その、期待してる、というか。

「なんで見てたらキスされちゃうの?」
「あんな熱視線寄越されたら、そう思うもんなの」
「熱視線……」

そんなつもりはなかったけれど。でも、好きって思って見つめていたから、それは多分この上なく正しい表現なのだろう。

こんな風に一緒に過ごして。時にはキスなんかしちゃって。人が聞いたらきっとすごく下らなくてつまらないようなことに言葉に出来ないくらいの喜びとかときめきを感じたり、両想いなんだなって実感したりして。これが恋をして、そして付き合うってことなのかもしれない。

そう考えたら、ふと、告白して少しした頃、万里くんに質問をした時のことを思い出した。

**

「付き合うって何すればいいの?」
「さぁ」

なんでも知ってますって顔をしながら、万里くんはなんともつれない返事をした。スマホでゲームをしながら。かくいう私も、話しながら友達のインステを見ているんだけど。
友達には熟年夫婦かとか言われたけれど、私のこれは結構照れ隠しでやっているから、どちらかと言えば初々しいと言ってほしいものだ。

「じゃあとりあえず、今度デートでもするか?」
「する!」

キラキラと目を輝かせて顔を上げれば、同じくスマホから目を離してこちらを見ていた万里くんが笑った。
その笑い方が少年みたいで、私は新しい万里くんを知ったような気がして、暫くドキドキが止まらなかった。

**

「なぁなまえ、それ、キスされたくてしてんの?」
「えっ?」

思い出に浸っていた私の意識を万里くんが引き戻した。
私はその間、相変わらず熱視線とやらを万里くんに送ってしまっていたらしい。

「その……嫌っていうわけじゃ、ない、よ?」
「つまり?」

にやにやと笑う万里くんは、私の気持ちなんてお見通しなのかもしれない。わざと言わせようとするなんて、意地悪だ。とっても意地悪。なのに、得意気に笑ってるのを私はかっこいいと思ってしまうんだ。

「つまり、」
「つまり?」
「……万里くんとキスしたい」

観念して素直に言ったのに、途端に万里くんは両手で顔を覆ってしまった。なんか唸ってる。

「万里くん?」
「反則だろ」
「万里くんが言わせたんだよ」

反則もなにもない。寧ろ正攻法だ。言葉の使い方があっているのか微妙だけど。

「なまえが可愛すぎんのが悪い」

文句を言われた。文句だけど、褒め言葉みたいだ。

照れて何も言えずにいる私の手を万里くんが取る。されるがままになりながら、手を繋がれて、指を絡められるのを見つめた。
万里くんの手の大きさとか自分とは違う体温を意識して、絡んだ指の僅かな動きも逃してはいけないと、息をひそめる。皮膚の触れあう感触にここまで心が揺さぶられるものなのかと、なんだか驚いてしまう。それは相手が万里くんだからだって、分かってはいるけれど。
手を繋ぐのが特別なんじゃなくて、万里くんが特別なんだ。万里くんにとっての私も、そうだったらいいな。
さっきから指先で私の指を撫でている万里くんはこちらを見ながら微笑んでいて、私と違って照れているようには見えないけれど。

手を繋いで、キスをして。もしかしたら、いつかの未来にはもしかしちゃって、それ以上のこともするかも。そこの興味がないかと言えば完全に否定は出来なくて、今の私には一体どこまでが恋で、どこかしらから愛になるのかとかもわからない。
けれど、私の「好き」は本気で、一生懸命で、私は私の全部で万里くんに恋してる。それは間違いなく言えること。

「万里くんだって、いつもかっこいいから困る」

お陰で私の心臓は必要以上に働いてばかりいるんだから。もっと休ませてほしい。
なのに、万里くんは「そりゃよかった」と嬉しそうに笑った。何もよくないのに。

「彼女にはかっこいいって思われたいし」
「万里くんでもそう思うものなの?」
「そりゃな。万里くんでもそう思うの」

万里くんが万里くんって言った、かわいい。なんてキュンとして、繋いだ指先に力が入った。それをチラリと万里くんが見たのが分かって、心臓が飛び上がる。

「で、そろそろキスしていい?」

そういえば、そうでした。したいって、私が言ったのに。

「……うん」

小さく頷いた私の頬を万里くんの繋いでない方の手が包む。やっぱりすごく熱い気がするその手の熱を感じながら、近づいてくる万里くんの顔にやっぱりかっこいいなあ、って見惚れながら、私はゆっくりと目蓋を下ろした。

特別な人とのキスはいつだって特別で、唇から伝わる甘い熱に浮かされそうになりながら、これが恋の味なのかな、なんて考えた。

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