「ただいまー」
「万里くん、おかえり!」

にこにこ笑ったなまえが両手を広げて駆け寄ってくるから、口から出かかっていた溜め息は一瞬のうちに消え失せて、口元がだらしなく緩んだ。なんなんだ、あの可愛い生物。
可愛いカノジョのリクエストに応えて、ぎゅっとなまえを抱きしめたら、なまえも俺の背中に手を回して――

「……ちょっと違う」
「なんでダメ出し食わらなきゃなんねえんだよ」

つーかちょっと違うって何が。
仕返しに抱きしめる腕に思いっきり力を入れてやれば、きゃあきゃあと声を上げるから、その反応につい笑っちまう。

「疲れて帰ってきた万里くんを甘やかそうって思ったんだよ」

一通り満足してから手の力を緩めた俺に、なまえはそう説明した。だからさっきのは、俺が抱きしめるんだと甘やかすより甘やかされてる感じがするからというダメ出しだったらしい。いや、あれどう見たって抱きしめられに来てただろ。

「万里くんはいつも頑張る姿とか、かっこいい姿をたくさん見せてくれるから、せめて私も何か出来たらなって。 知ってた?頑張ってる時の万里くんってすごく楽しそうな顔してるんだよ」

目をキラキラさせながら話すなまえは、俺が帰ってきた時にいつもすげー嬉しそうに笑うから、その反応だけで俺がどれだけ癒されてんのか、知らないんだろう。
誰に会ったって嬉しそうに笑うけど、俺の時は別格。すげーわかりやすくて、すげー可愛い。

マジになれるもんを見つけて、演劇にうちこむ俺をいつだって全力で応援してくれる姿は、嬉しいとか、いとしいとか、そういう感情を起こさせる。

「そうだ、万里くん、ちょっと屈んでくれる?」
「へいへい」

言われた通り膝を曲げたら、なまえの手が俺の頭に伸びてきて、よしよしと頭を撫でられた。なまえが言う甘やかすっつーのは、こういうことなんだろう。頭撫でられるとか、ガキみてえ。
……悪くはねーけど。

「万里くん、お疲れ様」
「んー……」

これ、座ってやられたらそのうち寝そうだな。
いつまでも立ったまま撫でられてるいわけにもいかねえから、若干の名残惜しさを感じつつも姿勢を戻し、「ありがとな」となまえに告げる。

「けど、俺甘やかされるのもいいけど、どっちかというと甘やかしたいっつーか」
「そうなの?」
「だからなまえ、俺のこと労いたいってんなら、今からたっぷり俺に甘やかされるので決定な」
「うん……?」

なまえが言われたことの意味を呑みこめずに戸惑っている間に、問答無用で連行する。俺の部屋だと兵頭が邪魔だから、行く先はなまえの部屋だ。

「あ、あああの、万里くん?」
「そう警戒すんなって。取って食いやしねーんだから」
「!?」

ま、いいって言うんなら遠慮なくいただくけど。
内心そう付け足しながらも、実際寮で手を出すつもりはねえ。……多分。
コイツ、無自覚で煽ってくるから結構厄介なんだよな。

「いいから、俺に甘やかされてろって」
「ねえ、やっぱりそれおかしくないかなあ!」

私が万里くんを甘やかしたいのに!と主張するなまえも可愛いけど。なまえが思うのと同じように、俺だって色々頑張ってるなまえを労いたいって思うってのをいまいちわかってねえんだろうな。

「俺だって、結構感謝してんだって」
「え?なにに?」
「後でな」

わかってねえなら、ちゃんと俺が一から教えてやっから。
あまりに単純でハズいけど、俺はなまえが応援してくれると普段の数倍頑張れることとか、俺を見るとすげー嬉しそうな顔するなまえを見るだけで疲れが飛ぶこととか、今も一緒にいるだけで癒されてることとか。

「要は、なまえがすげー好きってこと」

先に結論だけ伝えてやれば、なまえは茹蛸みたいに真っ赤になって大人しくなった。
その反応に満足して笑いながら、俺はなまえの部屋のドアを開けた。そういや、帰って来る前に感じてた疲れはいつの間にか吹っ飛んでたな、なんて思いながら。

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