カーテンの隙間から射し込む光で目が覚めた。完全に閉めきってなかったことに気付かなかったのは、きっと昨夜の俺にそれだけ余裕がなかったからだ。
布団のなかはやけに暖かく感じて、気だるさを感じながら隣を見れば、俺にぴったりくっついているなまえの姿に、心臓が飛び上がった。
……ほんっと、心臓に悪ぃ。そこにいるってわかっててもこれだ。
うるさく鳴り続ける鼓動を煩わしく思いながら、気持ち良さそうに寝ているなまえを見つめる。
のんきな顔だな。
それが昨日あれだけ色っぽい表情を見せていたんだと、つい思い出して、一気に耳まで熱くなった。
穏やかに眠るなまえを見ていたら無性に触れたくなって、少しなら許されるかと、起こさないよう気を付けながら指先でなまえの目元を撫でる。
……昨日、泣いてたな。
ぽろぽろと零れる涙がキレイで、泣きながら俺の名前を呼ぶのがすげー可愛くて。歯止めなんてきかねぇし、理性なんてとうの昔にとんでいた。
「好きだ」
昨日もたしかに、何度も伝えた覚えのある言葉が、気付けばまた口から溢れていた。
好きだとか結婚してもないのに滅多に言うもんじゃねぇとか、これまで散々口にしてきた言葉は、もう意味をなさなくなった。むしろ積極的に言った方がいいのかもしれねえけど、それは流石に恥ずかしい。
一生離すつもりもなければ、名実ともに離さなくていいことになった、……俺がずっと大事にしたいヤツ。
籍を入れて、式を挙げて……みんなに祝われるのは、すげー恥ずかしかったっつーか、今思い出しても胸の辺りがムズムズする。そりゃ、嬉しくなかったわけじゃねーけど。
睫毛が震えて、黒い瞳が俺の姿を捉えた。
「あざみくん」
寝起きの頼りない声でふにゃりと笑ったなまえが、すげぇ可愛くて、愛しいと思う。そう感じた時には、あまりに温かくて、少し不安になるくらい柔らかい身体を抱きしめて、腕にしっかりと閉じ込めていた。
触れあった素肌に、反射的に心臓が変な音をたてた。
「はよ」
「ん、おはよう」
なまえの声が甘く身体に染みこんでいく。
多分こうやって、俺のなかになまえの声とか言葉とか温もりとかがたまっていって、コイツという存在が占める割合がこれからどんどんでかくなってくんだろう。正直、既に充分なんだけど、とは思うけど。
すり寄ってきたなまえの髪が首にあたってくすぐってぇ。けど、それで俺の腕は緩むどころか、離すまいと更に強まった。
「身体、痛くねえか」
「大丈夫だと思う。ありがとう」
「無理はすんなよ」
まあ、俺の所為なんだけど。
「ふふ、莇くん優しいね」
「別に」
優しいわけじゃ、と言いかけたところで、「知ってたけど」なんて嬉しそうに言われたら、否定も出来なくなった。
言いなりかよ。情けねえ。
自分ではそう思いながらも、どっかでまあいいかと思ってるところもあるから、俺はもしかしたらもうコイツに一生勝てねえんじゃないかなんて考えが過ぎる。
「なまえ」
「なあに?」
顔を上げたなまえの頬に触れてキスをしたら、なまえは瞬時に真っ赤になって動揺した。その表情に気を良くして、フッと笑う。
「勝った」
「ええ……勝ったって、なにそれぇ」
困ったような顔をしながら依然赤いままの頬は、チークがなくたって充分で、キレイだ。引き寄せられるようにそこにキスをしたら、「ひぁ」と小さく声が零れた。
「こ、こんな莇くんは知らない……」
どれだけ必死なんだか、目まで潤ませてるなまえに笑って、「これから知ってけよ」と宣戦布告じみたことを言う。
俺だって、こんなに可愛いなまえも、こんな満ち足りた気持ちで迎える朝だって知らねえよ、なんて内心の動揺は精一杯の矜恃でひた隠しながら。
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