「万里くん?」

今日って会う約束してたっけ、と驚きながら大好きな人の名前を呼べば、万里くんは意味ありげにニッと口角を上げた。

「いーや、今日の俺はサンタだから、プレゼントを渡しにな。つっても、サンタじゃなくてブラックサンタだけど」
「あっ、ほんとだ」

万里くんが着ている服は、この時期よく見かける服と同じ形をしているものの、色は真っ黒だ。

「帽子にポンポンついてるの、かわいいね」
「……。そこかよ」

呆れたような顔をしながらも、ちょっと眉を上げて帽子のポンポンを触った万里くんは、たぶん、ほんのちょっとだけ照れている。
……って、そうじゃん、ブラックサンタって……!

「私、いい子にしてたのに!」
「んじゃ、お仕置きでもすっか」
「おしおき!?」
「そーそー。ブラックサンタだからな。 そーいや、悪い子を連れ去るブラックサンタもいるんだよな。なまえはそっちにしとくか?」

腰に手を回して引き寄せられ、万里くんと身体がくっつく。

「ひゃっ」
「まーでも、やっぱ連れ去る前にお仕置きか」
「両方なの!?」
「サンタを誑かした罰」

誑かすもなにも、私なにもしてないのに!万里くんこそ私を誑かしてると思う!
そう言おうにも、至近距離で見つめあえば、つい見惚れて言葉を失ってしまう。うう、万里くんがかっこいいのが悪い。

「なまえ」

いつもより熱っぽい名前で呼ばれて、その熱を移されたみたいに全身が、指の先まで熱くなる。ドキドキする。

ああ、でも、それでも──

「っ、わたし、いい子だってば!」

叫んだ声は実際の口にも出ていたらしく、私は自分の声で目を覚ました。

***

「っていう夢をみたの。絶対、万里くんにブラックサンタの話を聞いたせい」
「単純すぎんだろ」

流石に、お仕置き云々のところは省いて話した。あんな話出来るわけない。あんなのまるで私が欲求不満みたいじゃない。

「たしかに万里くんは赤いサンタ服よりブラックサンタの方が似合うよね」
「かもな」
「私はいい子だからブラックサンタは来ないけどね!」
「根に持ちすぎたろ」

だって、あんな夢だったんだから、忘れようがないじゃない……!
とは、万里くんには言えないけども!

「んじゃ、いい子のなまえチャン」
「はい?」
「ほら。プレゼント」
「わあ!」

いつの間に手に持っていたのか、リボンを巻いた箱を渡されて、声をあげる。

「ありがとう!」

万里くんってば、私のサンタさんだ!ちゃんとした方の!と喜べば、「やっぱ単純だな」と笑われた。でも、それが嬉しさを含んだ笑顔だってわかるから、私はやっぱり純粋に喜んでしまう。

「なぁなまえ」
「なあに?」
「なまえにプレゼントを渡すいい子な俺には、サンタは来ねぇの?」
「プレゼントあ……」

あるよ、と言う前に、私はまるで抱きしめるようにして身体がくっついた万里くんの、あまりにも近すぎるきれいな顔に、言葉を失った。
あれ、この体勢、つい最近どこかで……?

「プレゼント、もらうな」
「えっ?」

にやりと笑いながら宣言されて、万里くんの顔が近づいてくる。

あれはある意味正夢だったのかな?とか、万里くんのお仕置きとプレゼントって、もしかして同じ意味?とか、なんか色々なことが頭に浮かんだものの、それはぜんぶ、私の「ばんり、」の言葉と一緒に呑み込まれてしまった。


「プレゼント、あるって言ったのに」と拗ねる私をやけに上機嫌な万里くんが宥めるのは、それからもうちょっと後の話。

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