「この朴念仁」
「あ?」

十座くんが私を見下ろす瞳は、きっとその辺の人が見たらギロリと睨んででもいるように見えるのだろうけど、そんな意思は全然ないことを私は知っている。
だから私は、(私から見たら)意味が分からないと不思議そうな顔をしている十座くんにツンとして、「なんでもない」とそっけない態度を取った。

だって、十座くんってばひどいんだ。鈍すぎる。
十座くんのばーか。アホ、ばか、ばーかっ。
乙女心を分かれなんて、そんなハードルの高いことは言わない。けど、せめて二人で歩いていたら手を繋ぐくらいしたっていいじゃない。っていうか、私、彼女だよ?繋ぎたいとか、思わないのかなあ!
そりゃあ好きって気持ちは私の方が圧倒的にあるかもしれないけど、そんなところも硬派って感じでかっこいいとも思うけど、でもでも、恋人同士なわけだし、ちょっとくらいイチャイチャっていうか、それっぽいことをしたって……「……い」

「おい、聞いてるのかなまえ」
「え?」
「だから……近い」

ん?
戸惑いを孕んだ十座くんの声がやけに近くから聞こえる。それに、さっきからぽかぽかと、熱いくらいの温かさを感じる。一体、何……

「!?」

それに触れてみてやっと、十座くんの胸板だとわかった。
ぐちぐちと十座くんのことを考えていた私は、歩きながらどんどん十座くんに近付いていき、いつのまにか彼にもたれかかるようにしてくっついていたのだ。それはもう、ぴったりと。
こんなの、手を繋ぐとか、そんなものじゃないイチャイチャっぷりだ。

「っ、ごめん!」

大慌てで十座くんから離れたら、そこで初めて、彼の頬がいつもより僅かに赤くなっていることに気が付いた。
その事実に、恥ずかしさとか、嬉しさとか、色んな気持ちが一気に加速して、顔が真っ赤になる。

「いや……。嫌では、なかった」
「!」

「だから謝る必要はねぇ」とか、そんなことを言われたら、そんなの今度こそ本当に嬉しくてドキドキして仕方がなくなってしまって、私はさっきまでの場所に戻るように、ドンッと十座くんにくっついた。
勢いをつけて飛びついたところで、びくともしない十座くんの逞しさにキュンとする。

「十座くんのばかぁ」
「あ?」

なんでそういうことを言うかなぁ!
歩いてたって手も繋がないくせに、全然恋人っぽいこととかしないくせに!なのにこういうことを普通に言ってくるんだ。ほんと、意味わかんない。ずるい。

「もう!ばかばか!大好きだばか!」
「意味わかんねぇ」

そう言いながら私を見る瞳は(私からしたら)とても優しくて、私はそれ以上照れ隠しの悪態すら吐けずに、ぎゅーっと十座くんにひっついた。

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