彼氏ができました。
あれよあれよという間に親への挨拶とかなんかすごい家に行くのとかが済まされ、私の心がやっと追いついた時には、確固とした事実がそこにあった。びっくりした。
そんなこんなで、私は現在クラスメートの泉田莇くんとお付き合いをしている、らしい。
たぶん、嫌だったらちゃんともっと前に我に返ってそう言った。ぽやぽやしているうちに全部終わっていたのは、ひとえに、嫌じゃなかったからだ。
だって泉田くんは、かっこいい。クールな感じで、口数も少ない方だけど、話した時に声とかしゃべり方が優しいって感じるから、私は勝手にいい人だなって思っていて、好きだった。
度々転びそうになるのを見られて心配されるのは恥ずかしかったけれど。でも、いつも心配してくれるのが、泉田くんの優しさを感じて嬉しくもあって。それをきっかけにお話出来るのも、嬉しくて。恋って呼べるほどじゃないかもしれないけど、いつ恋になってもおかしくないようなドキドキっていうか、そんな感情を密かに抱いていた。けど好きになったところで、あんなかっこいい泉田くんが私を恋愛対象として見てくれるわけないからと、これ以上好きだなんて思わないように気をつけようともしていた……のだけど。
だから、泉田くんが彼氏なんて、むしろ歓迎というか、でもいいの?って思う。

泉田くんは私がドジをすると心配してくれるし、なんなら助けてくれる。お付き合いをするようになってからは、何度か私がどこかにぶつかるのを未然に防いでくれたことまであって、泉田くんってもしかして予知能力でもあるの!?って驚いた。本人は「みょうじがフラフラ壁の方に歩いてったからだろ」とわかって当然みたいに言っていたけれど。私には全然わかんなかったよ。

そんなこんなで、あれやこれやのうちに泉田くんが彼氏になって少し経った。未だに全然慣れてないし、今でも夢なんじゃないかなって思う。
でも、泉田くんが彼氏ってことはつまり、私は泉田くんのことを好きになっていいってことだよね。そう考えたら 、あっという間にとっても好きになってしまった。だって泉田くん、見てるだけであんなにかっこいいんだもん。

告白とか、するべきなのかな。でも、付き合った後で何を言ってるんだって思われるかな?それに、私も泉田くんに好きとは言われたことないんだよね。強いて言えば……

「責任は取る」

あの時泉田くんが言った言葉が、私達がお付き合いをすることになったきっかけだとは思う。けど、責任って、なんの責任だろう?私、助けてもらっただけだよねえ。
それすらも聞けずに今の状態になってるのは、本当はよくないのかな。
でも、毎日泉田くんと顔をあわせて、少しの会話をするだけでいっぱいいっぱいで、そんな余裕なんてなかったんだ。今もまだ全然ない。

「みょうじ、そこ段差ある」
「え?あっ、本当だ!」

段差の直前、ギリギリで足を止めた私は「ありがとう、泉田くん」と何度目かのお礼を言う。「別に……」って俯く泉田くんは、本当に謙虚で優しい。
さすがに、段差がある度泉田くんに教えられているわけではない。むしろ言われない時の方が多い。って、当然だけど。
それでも泉田くんが私にそれを言う時は、大体私が気付いてない時だから、やっぱり泉田くんは超能力者かなにかじゃないかと思う。

「なんで私が段差に気付いてないってわかったの?」
「わかったっつーか、みょうじが何か考え事してそうだったから、一応」
「泉田くん、すごいねえ」
「すごくはねぇって」

尊敬の眼差しで泉田くんを見つめていたら、「……なぁ」とどこか言いづらそうに泉田くんが口を開く。

「なんか悩み事でもあんのか?」
「え?」
「ずっと、なんか考えてるみてーだったから」

悩み事、ではないのだけれど。言うのは恥ずかしいけど、泉田くんを心配させちゃうのは嫌だなあ。
んー、とちょっとだけ思案して、やっぱり本当のことを伝えることにした。緊張でぎゅっと手を握る。

「えっとね、泉田くんのこと考えてたの」
「はぁっ!?」

突然大きな声を出した泉田くんにびっくりした。泉田くんは色の白い肌を紅潮させて、焦ったような顔をしている。

「だ、だめだった?」
「ダメっつーか、そうじゃなくて……!」
「?」

いつも冷静な泉田くんだけど、時々こんな風に慌てることがあるのは、泉田くんが彼氏になってくれてから知ったことだ。それがレアだなあって、泉田くんの新しい一面を知れて嬉しかったり、可愛いなって思ってキュンとしちゃったりとか、本人には言えないけれど、そんな風に思っていたりする。

「なんで俺のことなんて考えてんだよ」
「泉田くん、いつも優しいなあとか、えっと、かっこいいなぁ、とか、その、す……」

好きだなあ、とか。
そう言おうとして、でも言う勇気があとちょっと足りなくて躊躇っていたら、その前に泉田くんに「も、もういい!」と止められてしまった。
そのまま手で顔を覆ってしまった泉田くんがどんな表情をしているのか、私には見えない。

「泉田くん?」
「っべーだろ……」
「なにか言った?」
「……いや」

やっと泉田くんが手をどけたので、顔を見ることが出来る。
なんだか不貞腐れた顔をしてる気がするんだけど……私、何か気にさわること言っちゃった?

「みょうじだって……」
「うん?」
「っ、なんでもねぇ!」

プイッとそっぽを向いてしまった泉田くんに、心配になって「怒ってる?」と聞いたら、急いでこっちを向いて怒ってないって言ってくれた。本当に怒ってなんかないからって言ってくれる泉田くんは優しくて、やっぱり私は泉田くんのことが好きだなあって思ったら、ドキドキが募って、頬が赤くなったのが自分でもわかった。
上目遣いでチラリと見上げた泉田くんはまっすぐに私を見ていて、目があって、二人でどきまぎと逸らした。
なんか、恥ずかしいな。でも嬉しくて、ドキドキして、しあわせなんて。なんだかまるで、心がおかしくなっちゃったみたい。
でも、さっき目があった泉田くん、かっこよかったなあ……。

「(みょうじはすげぇ可愛い。……なんて言えるかよ)」

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