天気は快晴。ギラギラとうざいくらい眩しい太陽の下、ふわふわと呑気な声が響いた。

「わあっ、かわいい!」

会ったそばからオレにかわいい、かわいいとバカの一つ覚えみたいに連発するなまえの言葉を聞き流すのには、もう慣れた。

「語彙力なし子」
「はうっ」

いい加減うるさいので一言言ってやれば、ショックを受けながら「だってかわいいんだもん」となまえは頬を膨らせる。はいはい。

「知ってる」

オレが可愛いのも、なまえがオレを大好きなのも、知ってる。

「じゃあ行こっか、お買い物!」
「まずはあっちの店からね」
「はーい!」

意気揚々とオレの隣に並んだなまえを一瞥して、「あ、そうだ」とオレは踏み出したばかりの足を止めた。なまえがかわいいかわいい言ってくるせいで、オレの方は言いそびれてた。

「それ、似合ってるじゃん」

この前、なまえが一目惚れしたスカートに合う服がほしいって言うからオレが選んだトップスに、あれを合わせたらいいと言っておいた帽子と靴。バッグも小物も、前に一緒に買ったもの。一つ一つ、買った店まで覚えてる。オレが納得する、なまえに似合うと思った、可愛いもの達。それらを身に纏ったなまえは、オレの言葉に頬を染めて笑った。

「えへへ、幸くんが選んでくれたから」
「……ま、それは当然だけど」
「うん、幸くんはすごいもん」

なまえに「ゆきくん」と呼ばれると、口の奥にものすごく甘い飴をつっこまれたような気分になる。
甘ったるい飴とか、テンプレヤンキーが好きそうって思うけど、この感覚もこの権利も、誰かに譲るつもりはない。

「幸くんが選んでくれる服はどれも可愛くて、しかも私に合うから、本当に助かってるんだよ」

既になまえのクローゼットの半分くらいは、オレが選んだ服になっていると思う。
それはつまり、どんどんオレ好みにされてるってことだと、きっとなまえは気付いてない。気付いたとしても、バカみたいに鈍いから、「うれしい」なんて言って喜びそう。
本当は、クローゼット全部、オレが作った服で埋めてやりたい。けど、それは追々。今はまだ、オレが選んだ服を着て能天気に笑っていてくれればいい。
なんて思ってたら、なまえが顔を覆って動かなくなっていた。

「なにしてんの」
「……幸くんに、褒められちゃったなあって」
「遅」

なまえはいつも照れるのが遅い。オレが好きだって言った時も、初めて手を繋いだ時も、ぼけっとしてるなと思ったら後になってから真っ赤になって、泣くんじゃないかと思うくらい目を潤ませながら照れていた。
そういうまぬけなところが可愛いとか……ちょっとだけ、思わなくもない。

「ほら、行くよ」

なまえの手を引くと、「ぴぃ」と鳴いた。鳥か。
そのまま問答無用で歩いたら、なまえもちゃんと着いてくる。オレよりも小さくて、やわらかい手を握るのは、結構好き。


「あのね、幸くん。お願いがあるの」

一軒目の店に入る前、やっと調子を取り戻したなまえにお願いをされた。

「なに?」
「お揃いのもの、買いたいな」
「いいけど」
「やったー!」

双子コーデなんかでもいいけど、それは今度一緒にテーマパークに行った時にやりたいって言われてる。だから、小物をあわせてさりげなく……でもはっきりとお揃いってわかるようなものにしよう。
たとえば、とオレが提案をしていくのをなまえはにこにこと、しあわせそうに聞いて頷く。

何軒か店を回って、目当てのものを買った。今二人で繋いでいる手には、色ちがいのブレスレットが光っている。

「じゃ、これはオレが持ち帰ってアレンジするから。出来たら渡す」
「うん、よろしくお願いします」
「アレンジに必要なもの、買いに行くよ」
「はーい」

ブレスレットと同じ色のもの、となるとオレの手持ちにないものもあるからね。
ブレスレットだけっていうのも味気ないと思ったから、なまえの要望を叶えるために、もう一つアイテムを買った。それにオレが手を加えると言えば、なまえは目を輝かせて喜んだ。

「幸くん、ありがとう」
「それ、もう五回目」
「だって嬉しくて」

ま、これだけ喜ばれるのは、悪い気はしないけど。

「幸くんって結構私に甘いよね。いつもお願い、聞いてくれる」
「甘さをあわせてやってんの」
「……?」

きょとんとする顔を見て、一生わかんなくていいよ、と思う。なまえがふわふわ甘いから、オレも甘くしてるなんて。

「甘いといえば、なにかおいしいものも食べたいねえ」
「次の店行ったら休憩にしよっか」
「うん!」

るんるんと上機嫌になまえが繋いだ手を振るから、オレの手までふらふら揺れる。
夏に手を繋ぐのは暑いし、そんなことするなんて有り得ないって思ってたのに、いつの間にオレは、自ら手を伸ばすようになったんだろう。
なまえが額の汗を拭いながら、「暑いから冷たいものが食べたいねー」と言ったのに対して、「うん」と上の空で返事をする。
これだけ暑い中、幸せそうに笑う横顔に。首筋をつぅ、と伝った汗に。つい、目を奪われたのは、きっと、暑さのせいでちょっと頭がわいてたから。

「幸くん?」

こてん、と首を傾げたなまえに、やっぱり、いつもみたいに口の奥の方が甘ったるくなった。
「なんでもない」と返事をして、オレはその甘さを噛みしめる。素直な言葉を送るのは、ちょっとまだ慣れないし照れくさい。
しかも、言えばなまえはまた時間差で照れて動かなくなるだろうし。ただでさえ暑いのに、そういうことを言うのは、オレだって暑さが増すから。だから今は、言わない。
……それに、きっとオレ達には、まだまだ時間はあるだろうし。
そう思いながら、オレはいつまでもなかなか沈まない、真夏の太陽を見上げた。暑いし眩しいけど、こんな日がオレは案外、嫌いじゃない。

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