「うわ、暑!」

家のドアを開けると同時に、むわりと外と変わらない熱気に襲われ、なまえは思わず声を出した。その後ろでは至が今にも死にそうな顔をしている。

「ごめんね、家を出る時に癖でクーラー切っちゃったみたい」
「節約にはいいんじゃない」

本心から思っていることなのかどうかは分からないが、どんよりとした声でフォローを入れられて、なまえが申し訳なさそうに「そうかも」と笑う。
直ぐにクーラーをつけて、いつもの温度よりも二度低く設定した。これで少しでも早く涼しくなればいいと、暑さでだれている至を横目に見る。
元々インドア派の二人は、わざわざ暑いなか夏に外で遊ぶタイプではないし、そもそも現代日本の夏は外で遊べる暑さではないというのが二人の持論だ。だから今日はなまえの家でゲームをしつつまったり過ごそうという、季節感もなにもない、いつも通りの休日を過ごす予定だった。そのために外で待ち合わせ、コーラやらお菓子やらを買い込んできたのだ。快適に楽しく遊ぶためなら、外に出るのも厭いはしない。いや、本当は嫌だが、至が車を出してくれたからいいのだ。ついでに必要な日用品も買わせてもらった。

「とりあえず冷たいお茶を飲もう」

なまえが冷蔵庫を開けてひんやりとした空気を浴びたら、後ろからぬっと至も顔を出してきたので、思わず笑った。

「小学生、こういうことやるよね」
「あるある。親に怒られるまでがセットのやつ。はい、コーラ」
「ありがとう」

お茶を出すのと入れ替わりで、買ってきた飲み物を冷蔵庫に入れる。
コップを出してお茶の用意をするなまえを至が無言で見つめる。暑さのせいか、若干目が据わっているのには、なまえも、恐らくは本人も気付いていない。
クーラーの冷気は、まだ台所には届かない。
氷を入れた冷たいグラスを用意して、なまえが「よし」と背筋を伸ばすと、つぅ、となまえの首筋を汗が流れた。

「……」

そこに目が釘付けになったまま、至が一歩、なまえに近付く。

ぺろっ

「ひあ!」

飛び上がったなまえがお茶を落としてしまわないよう、至はなまえの手に自分の手を重ねてそれを防いだ。

「なっ、なにするの!」
「誘惑されたから」
「してないし!」

至に舐められたところを守るように手でおさえるなまえが、目を潤ませ、顔を真っ赤にしながら見上げてくるのは、狙ってやっているのだろうか。
誘惑なんてしてないと言うが、至からすれば、現在進行形で誘惑されている気しかしない。

(とりあえず抱きしめたいんだけど、暑いかな)

先程より若干室内の温度は下がったような気はするが、あくまで若干だ。多分どころか、確実に抱きしめたら暑いだろう。今、なまえのすぐ近くにいるだけでも十分暑い。
整った顔をきりりとさせて至が考えているのはそんなこととは、流石になまえも思っていない。というか、未だに顔が真っ赤でそんなことを考える余裕がないというのが正確なところだ。

「あの、えっと…至くん、お茶飲まない?」
「うん」

頷きながらも離れる様子がない至に、なまえはお茶を置いて、戸惑いながら向き直る。
どうして、その途端至は顔を近付けるのだろう。クーラーは入れたのに、どうしてこんなに暑いのだろう。
今にも逆上せそうだなんて思うなまえの後ろで、少し溶けたのか、氷がカランと音を立てた。
それを合図にしたかのようなタイミングで唇が重なって、びっくりしてちょっと肩が跳ねたことに、至は気が付いただろうか。


「やっぱ暑……」
「クーラー、利いてきてるはずではあるんだけど」

無造作に髪をかき上げて、至はちらりとクーラーの方に目を向けた。
頼むから、なまえの家のクーラーはもうちょっと頑張ってくれないかな。
そうでないと、じりじりと自分を追いつめる熱が体の内側から上がってくるのを至は自力では冷ませそうにない。
とはいえ、涼しくなったらなったで、素直に抱きしめさせてもらう気満々だけれど。なんなら、それ以上のことも。

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