宣言通り大気さんはお料理の手伝いに来てくれて、一緒に夜天君も星野君もやってきた。
キッチンに立つ大気さんと私のことをなぜかずっとカウンター越しに夜天君が頬杖をついて見守っている。星野君はどうしているか夜天君に聞いたら、テレビを観て大笑いしているらしい。何を観てるのかわからないけど、楽しんでくれているならよかった。

「ニンジン、切り終わりましたよ」
「大気さん手際が良い!」
「あなたは、普段から料理をしているという割には思ったよりたどたどしいですね」
「うっ……」

春から始めたばかりだからと言えば、大気さんは合点がいったみたいだった。実際、私のまともな料理歴は二ヶ月ちょっとだ。
はるかくんとみちるちゃんといた時に料理をしなかったわけじゃないけれど、朝起きたら既に用意してくれていたり、三人で食べに行ったり、みちるちゃんと一緒にお料理をした時だって、私はお手伝いをするって感じだったから。

スリーライツの三人は、アイドルだけじゃなくて、なんとニュースで目にするセーラームーンと同じような戦士でもあるという。にわかに信じがたいというか、本当だとして、どちらか片方だけで既にただものじゃないのに両方とか、すごすぎて最早漠然として感じる。私としては信じる信じないっていう以前の、よく呑みこめていない状況だ。
ただ、くれぐれも誰にも言わないようにと真剣に言われたから、よくわからないけど本当のことなのかもなあ、なんてぼんやりと考えた。

「じゃあ、次はタマネギかな」
「タマネギですか…困りましたね」
「なんだ、大気出来ないのか?じゃあ俺がやってやるよ!」

ひょい、とタイミングよく現れた星野くんに驚いたら、お茶のおかわりをご所望らしい。大気さんと交代して、星野君と私でタマネギを切り始める。その間も、やっぱり夜天君はカウンターからこっちを見ている。面白いのかなぁ?

***

「うっ…」
「ぐすっ」

今日のタマネギはいつにも増して威力がある気がする。ぽろぽろどころかぼろぼろと涙を溢れさせながら、星野君と並んでタマネギを切る。ううっ、それにしても、涙で手元がよく見えない…!

「はい、名前。ティッシュ」
「うあー、やてんく、ありがとぉー」

涙でぐしょぐしょの顔を隠そうと頑張りながら、夜天君が差し出してくれたティッシュをありがたく受け取る。

「おい夜天、なんで俺にはくれないんだよ」
「星野もいるの?」
「当り前だろ!」

しょうがないな、と言いながら夜天君が渋々といった様子でティッシュを取りに行く。その短いやり取りからも、やっぱり仲が良いんだなあって思えて、笑ってしまう。
すると、ごしごしと腕で目元を拭った星野君がこちらを見た。

「なぁ、お前魔法でも使ったの?」
「魔法?って、なんで?」
「だって夜天が――」
「星野、持ってきたよ」

ずい、とティッシュの箱ごと出し出されて、星野君が何枚かティッシュを抜き取った。ついでに私ももう一枚もらったら、「まだ泣いてたの?」と夜天くんに呆れたような声で笑われてしまった。

「そういう夜天だってさっきかなり涙目になってただろ」
「知らない」
「夜天君は泣いても絵になるね」

「だから泣いてないってば!」と言った夜天君だけど、既に今、また涙目になってる気がする。

「名前、俺はどうなんだよ。俺だって人気アイドルなんだぜ?」
「星野君は泣き過ぎてて面白い」
「人のこと言えないだろー!」

クスクス笑えば、「ったく」と星野君も笑ってくれる。

「なんです?さっきから賑やかですね」
「あーっ、大気!お前、泣きたくないからってタマネギ俺に切らせたんだろ!」
「ええ、そうですよ」

あっさり認めた大気さんに星野君が文句を言うけど、全然気にした様子もなく、大気さんはしれっとタマネギを炒める段階になって星野君と交代した。
なんだか、楽しいなあ。
料理に愛情と涙をこめて

prev |main| next

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -