夜天君と話し始めてすぐ、学校の中から男の人の悲鳴が聞こえた。
「!」
「な、なに?」
突然のことに怖気づいてしまって、びくりと身体を震わせる。
「名前っ」
名前を呼ばれてハッと我に返ると、夜天君のエメラルドの瞳が真剣に、まっすぐ、私を見つめていた。張り詰めた緊張の糸に、息を呑む。
「いい、君は出来るだけ遠くに逃げるんだ。絶対、敵に君を追わせやしないから」
「でも、夜天君は?」
「僕は大丈夫。…そっか。もし会えたら、教える約束だったっけ」
大丈夫って、そんなことを言われても全然納得なんて出来ない。夜天君はどうするつもりなんだろう。
不安でたまらなくて、夜天君を見ていたら、不意に夜天君が顔を近付けてきた。それに驚いて目を見開く。
「僕は戦士なんだ」
「せんし?」
「そ」
しーっ、と人差し指を口元で立てて、夜天君が囁く。
「別にこの星のために戦う気なんてないけど……名前のことくらいは守ってあげる」
「?」
夜天君、今、なんだか不思議なことを言った気がする。この星、とか。
「ほら、早く行って!」
「は、はい!」
夜天君に急かされて、反射的に走り出す。
後ろから、小さく「またね」って言葉が聞こえた気がして振り向くと、そこにはもう夜天君の姿はなかった。
***
「はぁっ…はぁー」
走った…!
夜天君に言われるがまま走って、自然と足は当初の予定通り商店街に向かっていた。商店街に着くと、周りの人達はいつも通りに歩いていて、十番高校で事件があったことなんて知らないみたい。
そういえば、夜天君「敵」って言ってたよね。敵って、なんだろう。
そう思って頭に浮かんだのは、みちるちゃんとはるかくんのこと。
また、前みたいな怪物が出ていたらどうしよう。その悲鳴だったら?夜天君が戦士って、それって、前に見たような怪物とも戦えるっていうことなのかな。
…でも、そんな危ないことして、大丈夫かな。怪我とか、しないかな。
考えたらどんどん不安になってきて、でも今学校に戻ったら、夜天君に言われたことを守れない。それじゃあまるで約束を破っているような気がして、私はうろうろと商店街を歩き回る。
(…よし、決めた。スーパーに行こう)
予定通り買い物をして、そうして帰りに十番高校の方に行ったら、きっといい感じに時間も経っているから今よりは安全に様子が見れる筈。
そうと決めたら善は急げだと、スーパーへと向かう。
「…あら?」
けれど、買い物をして十番高校の門の中を覗いたら、そこにはいつも通りの放課後の風景があるだけだった。
もう、全部解決したのかな…?
私の横を通って、何事もなかったように家に帰る生徒もいて、ホッとしたような、拍子抜けしたような気持ちのまま、校門を離れる。
すぐに解決したなら、いっか。それで、皆が無事で、夜天君が無事なら、いい。
そのまま買ったものを手に持って家に帰ったら、エレベーターホールで見覚えのある姿が目に入った。
うそ、どうして…?
「夜天君?」
「名前」
「なんだ夜天、知り合いか?」
どうして、私のマンションのエレベーターホールに、スリーライツがいるんだろう。
君は戦士