僕たちの適正距離
幽霊だという高尾と出会ってから、一週間。
「真ちゃんナイッシュー」
「………」
「なー、今日も無視なのー?」
「………」
「真ちゃーん。……緑間くん。ミドリーン?真太郎。緑間っち!ミドチーン。……緑間?」
「うるさいな。どうしてお前がそのあだ名を知っているのだよ」
「だあって俺幽霊だぜー?人に気付かれないし暇だしで毎日人間観察してたら分かるっつの」
「………」
あれから高尾は、俺が部活後シュート練をしていると必ずやってきて、俺にあれこれと話しかけてきた。部活後は人がいなくなるとはいえ、もし高尾と話しているところを見られたら一人で見えない何かと話している変人として見られるだろう。
自分が変人として見られていることは自覚しているから、追い討ちをかけるようなことは避けたかった。
しかし。
「いいなーいいなー、俺、真ちゃんにパス出したい!真ちゃんのシュート超綺麗なんだもん」
「………」
「ねーねー、真ちゃん3Pしか撃たないの?ダンクとかしないの?」
「………」
「ねーってば!」
「うるさいのだよ!」
高尾には俺の都合など関係ない。人と話せるのがよっぽど嬉しいのか俺が一人のところを狙ってひたすら話しかけてくる。無視してもめげない。うるさいと一蹴してもめげない。とにかくめげない!
「話しかけるなと言っているだろう、高尾。シュート練の邪魔をするな」
「えーおしゃべりしようよ!」
「お前とおしゃべりをしているところを第三者が見たらどう思うと思うか?幽霊歴が長くても想像がつくだろう」
「『うわー緑間くん一人でしゃべってる…なんかいつも変なの持ってる上に電波なんだ…こわ…』」
「……お前腹立つな…。まあいい。つまりそういうことだ。それにお前に話しかけられてはシュート練を続行出来ないのだよ。人事を尽くせないのは困る」
「人事?」
「ああ。人事を尽くして天命を待つ。俺の座右の銘だ。勝つために人事に手を抜くことは許されないからな」
「ふうん…」
高尾は未だ納得のいかないような顔をしている。少し考えた後、「じゃあ、」と口を開いた。
「見るだけなら、いい?シュート練は邪魔しない。でも、終わったらちょこーっと俺と話してよ」
だめ?と小首を傾げる高尾。正直話すこと自体拒否したいのだが…まあ、シュート練を邪魔されないならいいだろう。
「……絶対シュート練中に話しかけてくるなよ」
そう言ってゴールに向き直りシュートを放つと、口笛が聞こえた。高尾を睨む。高尾は顔の前で必死に手を合わせていた。本当にうるさい奴なのだよ。
(付かず離れず茶々を入れ)