手の届かない領域

「じ、地縛霊…」
「そ、地縛霊。この体育館に10年住み着いてんの」
「幽霊、なのか…」

呆然とそいつを見つめる。想像していたようなのと少し違う感じがした。透けていないし、足もある。服も普通だ。
試しに思いきり殴ってみた。

「ぉわあ!!?」
「おお…すり抜けたのだよ」
「ちょっと!!確かにまったく痛くないけどびっくりするからやめて!!」
「すまない、つい」
「ついで人殴るな!!」

感触は全くない。普通に空振りしたのと同じ感覚だった。未だギャーギャーと怒っているそいつにうるさいと一言言い、向き合う。

「ところで、お前、名前は?」
「んあ?」
「元は人間なのだろ?名前は何と言うのだよ」
「あー、えっとね、高尾。高いに尾っぽの尾で高尾」
「たかお…高尾、か。…名字だよな?」
「うん。名前は分かんない」
「分からない?」
「うん。覚えてないの。いつの間にか忘れた」
「…そうか。俺は緑間真太郎だ。緑に間(あいだ)、真実の真に太郎で緑間真太郎」
「緑間真太郎。じゃあ真ちゃんね」
「はっ?なんなのだよそれは!」
「いいじゃん。よろしくな、真ちゃん!」
「その呼び名はやめるのだよ!」

ひょいと逃げようとする高尾の手を掴もうとして、空を握った。そうだった、触れないんだった。

「くそ、厄介なのだよ」
「ほらほら、真ちゃん、捕まえてみなよ」
「うるさい!」

からかい調子の高尾に腹が立って無意味に何度も空を掴んだ。追い付こうとする度にひらりと逃げてしまうから相当もどかしい。
…全く、厄介な奴と知り合ってしまったのだよ。





(無意味な追いかけっこに夢中になった)











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