恋愛クラフト

「I love youを使わずに愛を伝えるとしたら、先輩はどんな方法を使いますか?」
「…なに急に」
「いや、なんとなく」

 ケイちゃんは、いつも唐突だ。突然突飛なことを言い、その割に私の答えを興味無さそうに聞く。独特な雰囲気を持った、不思議ちゃんだ。

「夏目漱石の『月が綺麗ですね』みたいなもの?」
「それもひとつの手ですが…まあつまり、間接的に愛を表わすとしたら、どうするかって話ですかね」
「間接的に、ねえ…」

 ケイちゃんの方を見ると、やっぱり興味なさそうにスマホの画面に集中している。私への返答は片手間にって感じだ。

「ケイちゃんはいっつも唐突に質問をするけど、今日はやけに難しい、文学的な質問だねえ」
「文学的って…」
「あれ?文学的な感じしない?」
「先輩のその感覚が私には理解できません。先輩は私のこと不思議ちゃんとか思ってるかもしれないですけど、私にしてみれば先輩も十分不思議な感性してますからね」
「……ケイちゃんに不思議とか言われるのは、なんか心外だなあ」
「失礼な」

 ケイちゃんは顔を上げ、ムッとした表情をこちらに向けた。誤魔化すようににっこりと笑うと、ため息をついてまたスマホ画面に視線を戻した。

「それより、質問に答えてくださいよ。思いつかないからって話逸らしても駄目ですよ」
「話逸らしたわけじゃないんだけど……うーん、どうしようかなあ、抱きしめるとか?」
「それだけですか?」
「だって、愛情持ってぎゅーって抱きしめたら、それだけでも愛は伝わると思わない?ほら、好きな人に抱きしめられるだけで、ストレスが三割軽減されるって聞いた事ない?」
「そうなんですか?初耳ですけど」
「あれ?じゃあ違うかも」
「曖昧だなあ…」

 ケイちゃんは呆れ顔で私を見ていた。スマホですることもなくなったのか、ポケットにスマホをしまい、欠伸をひとつ。

「まあ、抱きしめるなんていう方法もありでしょう。でも、カップルだったらいいですけど、片想いだった場合、そんなことは出来ないし、もししたとしても嫌がられて終わりでしょう。もっとなんかないんですか」
「ほしがりだなあ、ケイちゃんは。うーん、じゃあ…手話とか」
「はあ?」
「え、ダメ?だって間接的だよ?」
「ダメでしょ。手話は会話としてのツールじゃないですか。一つ一つが意味を持ってるんだから、分かる人にはすぐ分かっちゃいますよ」
「えー難しいなあ」

 夏目漱石のように「月が綺麗ですね」なんて言うセンスもなく、私は頭を抱えてしまった。ケイちゃんは何も考えていないような顔をして、時々とんでもなく哲学的なことを言い出すから、言葉が出なくなってしまう。

「…あ。ていうか、ケイちゃんはどうなの?私にばっかり考えさせてないで、ケイちゃんもなんか意見出してよ」
「えー、私ですか…」

 自分が言い出した質問を向けられて、ケイちゃんは困ったように笑った。ケイちゃんがする質問はいつもくだらなくて、私がすぐに答えてしまうからだろう。ケイちゃんは、少し考えるように空を見つめ、私に向き直った。

「私なら、好きな人と、たくさんお話をします。『あなたとずっと話していたいんです』なんて言う勇気はないから、せめて、くだらない質問でもして、話を引き延ばそうとしちゃうかも」
「くだらない質問?」
「はい。…好きな人が鈍感で、大変なんですよね」

 そういってケイちゃんは、困ったように笑った。












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